日本のマーケティングはユニークか?:カップヌードルが上手に展開している理由

マーケティング、つまり商品開発において日本は海外に比してユニークか、と聞かれたらユニークな面もある、と答えます。その1つの理由はコンビニやスーパーに行けば新製品の嵐だから、と申し上げます。これが良いか悪いかは別の判断ですが、このあたりを少し考えてみたいと思います。

b-bee/iStock

日本に年に4回程度行く私が買い物ついでに生活調査でスーパーなどを丹念に見ていると「へぇ、こんな商品が出たんだ」と思わず手に取ってみることもあります。ただ、買うかといえば動機がないので買うことは少ないです。一方、ビール売り場では飲む動機があるので正直、悩みます。どれを買ってよいかわからないのです。次々新製品が出るので試してみよう、とひと缶購入、また次回も違う種類をひと缶購入…を繰り返していくと滞在期間中に同じ種類のビールに戻ってこないのです。

日本には大手のビール会社は4つです。しかし、各社が様々な戦略をし過ぎることで消費者を惑わし、不人気な銘柄はすぐに棚から降ろされます。つまり、「あれ、おいしかったよな」と思った商品は次に日本に行ったときにはもうないのです。

なぜこうなるのか、これは作る側と買う側の両面に理由があります。まず、作る側は同業他社の動向をつぶさに研究しています。「向こうがそう出るなら、うちはこうだ」と勝負に挑むのですが、定番に近い長寿商品になるのは1-3%程度とされます。つまり100の新製品のうち、残るのは2つ前後です。もちろん、作る側からすれば損失もあるでしょう。しかし、何もしないとライバルに抜かれるという危惧、まるでセロトニンが足りない経営者のように「何かしないと弊社は存続の危機にある」ぐらい煽るわけです。

一方、買う側は目新しいものへの興味だと思います。そしてスーパーやコンビニの「棚競争」もあります。目線に最も入りやすい高さの棚は最も売れる商品、そして棚の位置で商品の売れ行きは大きく変わるともされ、メーカーは必死で棚競争に挑むわけその一環で新製品、目立つパッケージで客目線を引くことに最大の注意を払っているわけです。

ところで、つい先だって花王がオアシスという香港系の物言う株主に株主提案される中、株主総会が開催されました。結論からするとオアシスが提案した4つの提案は全て否定されたのですが、私はオアシスのいう意味がよくわかるのです。それは花王は海外戦略がイマイチである、よってもっとグローバルな観点でマーケティングをすべきだと。

花王の近年の利益は見事に下落し、どこまで下がるのかと思うほどでしたが、前期、前年比2.5倍ほどの利益がでて一息ついたところです。花王の業績がさえないのはドメスティックな企業故で多分、海外で力を入れるのは東南アジアの一部ぐらいだろうと思います。カナダでもアジア系スーパーの一角で一部商品は売っていたと記憶していますが、KAOの名前はほとんど浸透していません。オアシスは「実力があるのにもったいない」というわけです。それでも株主提案を全部ひっくり返したので私から見れば花王はドメスティックな会社なのだろうと思うわけです。

海外のマーケティングと何が違うのでしょうか?私が思うのは日本はブランドが多すぎるにつきます。つまりブランド名と企業名が一致しないのです。これは企業戦略としては不利でしょう。例えば欧米のビール会社は昔からブランドは全く変わりません。バドワイザーもハイネッケンもミラーもカナダのカナディアンも何十年経っても何一つ変わらないし、消費者はそれに何も文句は言いません。

カナダではサッポロビールが地元の大手ビール会社を2006年に買収して以降、カナダでサッポロビールを製造販売していますが、その戦略は明白です。種類は一つだけ。そしてサイズも500ミリのロング缶のみで350ミリ缶はありません。その戦略がなぜ正しいのか、といえば顧客はブランドで決めるからでしょう。銀色の缶にSapporo Premium Beer 、その横には日本語で縦書きで「プレミアムビール」とだけ書いたシンプルなデザインは実にわかりやすいのです。またロング缶だけの戦略は実にユニークだと思いますが、酒屋にはサッポロビールが山積みで手に取る人も多く、アジア系レストランの生ビール販売はサッポロがほぼ独占状態です。つまり消費者はそこまで律儀に様々なブランドをテイスティングしてくれるわけではないので一本勝負しているのでしょう。そのわかりやすさが成功し、カナダでは市場シェア第3位なのであります。

北米メーカー製の洗剤やせっけん、シャンプーのような商品はメーカーの品質改良が繰り返されていますが、基本的にブランド名はずっと同じなのです。せいぜい箱や入れ物にちょっと配合が変わったよ、というお知らせがつくぐらいです。

日本人の改良好きは言わずもがなですが、これが新製品=改良を施したより良い商品という意識につながるのでしょう。ここで日本企業は商品名もパッケージも変えて別のモノとして売り出すケースが多く、消費者側も「へぇ、試してみたい」と思うから一度ぐらいは買ってみるけれど上述のようにヒット商品はめったに出ないということではないかと考えています。

欧米の経営的観点からはムダに見えるでしょうし、自社のシェアをも削りかねない奪い合いに映るのでしょう。もっと自社のコア製品をしっかり押し出せばいいじゃないか、というわけです。その点、カップヌードルのマーケティングは上手に展開している好例で、いつまでたってもカップヌードルだけど様々なフレーバーを打ち出すことで客を引き付けています。別ブランドにしないところに意味があるのです。私から見ると日本の商品はどれも極めて品質は高いと思います。海外でも当然勝てる潜在的能力はあると思います。ただ、販売の段階になって何かビビり症のようなところが見受けられる、そんな気がいたします。

日清食品 カップヌードル

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年3月27日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。
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