トランプ政権による261人のエルサルバドルへの送還には裏がある
既に日本のメディアが報道しているように、トランプ政権は3月17日、エルサルバドルに向けて犯罪組織メンバー261人を送還したと報じた。
しかし、この報道の内容は正確ではない。261人の内の犯罪組織のメンバーは137人で、101人は単に米国への違法入国者だということ。そして残り2人はエルサルバドルの犯罪組織マラ・サルバトゥルチャ(MS13)のリーダーたちだだったということ。
この送還には隠された内容がある。それを次に説明したい。
今回の送還にあたり、トランプ政権は1798年の「適正外国人法」を適用した。しかし、彼らの送還が違法であるとして送還の中止の判決をくだしたワシントンの地方裁はこの法律の適用は不適切であるとした。しかも、この法律は国家の安全を脅かす人に対して適用されるものだ。だから上述犯罪組織のメンバーはそれに匹敵するとしても、101人は単に不法に入国したというだけで、この法律の適用は正しくない。
またMS13のリーダー2人は米国で公判が予定されている人物であった。が、エルサルバドルのブケレ大統領は彼らの送還を米国に要求していた。というのも、ブケレ政権はMS13のメンバーが古い刑務所でおとなしくしているためにこの二人のリーダーと裏交渉をしていた形跡があるということ。米国で公判になれば、その秘密が明らかにされて、ブケレ政権にとって都合が悪いからだというのが送還の理由だとされている。
犯罪組織トゥレン・デ・アラグア
次に上述の137人が所属していた犯罪組織に就いて言及する必要がある。この組織というのはベネズエラで2013年に誕生したトゥレン・デ・アラグア(Tren de Aragua)と呼ばれている組織だ。この組織はベネズエラのアラグア州のトコロン刑務所内で誕生した。名前の発祥は同州を支配していた鉄道の労働組合のメンバーが鉄道の建設に使う部品などを盗んで密売していたことから彼らを称してアラグアの鉄道(のメンバー)と呼ばれるようになったことに由来している。
彼らの犯罪の種類は次第に広がり恐喝、麻薬の密売、誘拐などに及んだ。トコロン刑務所に収監される同組織の組員が多くなると、彼らが次第に同刑務所を支配するようになった。
ベネズエラは2代続いた独裁者によって国は貧困化し、現在まで800万人が国を去った。その中には、この犯罪組織のメンバーも大勢いた。彼らが向かった国のひとつが米国だった。そこでも同様に犯罪を犯すようになっていた。
米国で彼らの存在が明らかになったのは昨年5月であった。ニューヨークでこのメンバーが一人逮捕された。彼らは首に王冠や先が尖った5星の入れ墨をしているのが特徴だ。彼が逮捕された要因となったのは、ペルーの警察当局から捜査願いが米国に入っていたからである。彼が逮捕されたのが起因となって、彼らの存在が米国の警察当局で明らかにされたということであった。が、実際には既にこの組織のメンバーの多くが米国に密入国していて犯罪を犯していたということだ。
この組織のメンバーは中南米と北米とで5000人いると見らている。彼らの活動は特に中南米諸国で行われている。しかも、それぞれ地元の犯罪組織と協力して犯罪活動をしていることから彼の存在がより明らかになっているということだ。
国務長官マルコ・ルビオの存在がラテンアメリカで米国の影響力が増大
米国でトランプ大統領が登場して不法移民の追放を徹底したことによって、彼らもその対象にされたということだ。その第1弾として261人が米国を追放されたということだ。
それを容易にしたのは、今年2月にマルコ・ルビオ国務長官がエルサルバドルを訪問した際に、同国のブケレ大統領から米国での犯罪者を収容する容易があるとルビオ国務長官に伝えられたのが要因であった。
エルサルバドルはつい最近まで犯罪王国として同国市民が彼らからの脅迫を恐れて国外に出る人が多くいた。何しろ、2015年だと10万人当たり103人が殺害されていた国だった。それがパレスチナ移民2世のブケレ氏が大統領に就任すると、軍隊と警察を使って3つの大きな犯罪組織を徹底して取り締まり逮捕して行った。それをさらに徹底させるために首都サンサルバドルから70キロ離れたところに4万人の犯罪者を収容できる巨大な刑務所を建設。現在まで2万人の犯罪者が収容されている。まだ2万人が新たに収容可能だということで、米国に犯罪者を収容する容易があることを伝えたものだ。
今回の261人の収監費用として、米国はひとりあたり1年間で2万ドルを支払うことになっている。即ち、今回の米国からの送還を引き受けたことで、およそ600万ドル近い収入がエルサルバドル政府に支払われることになる。しかも、米国との接近をより強めることによってその恩恵も受けるようになる。
今回のエルサルバドルの受け入れに対し、ルビオ国務長官からブケレ大統領に早速感謝の意が伝えられている。
ブケレ大統領は就任した当初は米国寄りの姿勢を示した。しかし、その後中国からの誘いが前政権からの影響で強くなり、彼も中国を訪問した。
しかし、トランプ氏が大統領に就任し、ラテンアメリカのことをよく理解しているルビオ氏が国務長官に就任したことで、米国寄りをより鮮明にしている。
送還された多くがベネズエラ人であるからベネズエラに送還するのが適切であるが、同国はこの受け入れを拒否している。
今回の送還についてワシントンの地裁は送還を差し止める命令を出した。というのも、送還するのに1798年の「適性外国人法」を適用したことは違反であるというのが理由だ。しかし、トランプ政権はその命令が下された時は既に送還者を乗せた2機は目的地に到着する寸前であったとして、その命令を却下した。
この大統領の判断は今後法廷で審査の対象になる可能性がある。一方、ブケレ大統領はこの送還をメディアで大々的に取り上げるようにさせた。
例えば、ペルーのテレビ局でもこのニュースを以下のYouTubeで報道されている。