素人投資家とインデクス運用との理論的関係

株式市場では、開示制度を前提にして、個人投資家が直接に取引に参加している。開示制度は、平均的な知識と思考能力を備えた普通の人を想定して、必要最低限の情報の開示を発行体に求めているだけだから、実際には、開示情報の分析を十分に行うことなく、株価変動だけを見て売買する個人投資家は少なくない。しかし、こうした投機的、もしくは心理的行動は、市場に流動性を供給するものとして、市場の制度設計上、不可欠なのである。

Nature/iStock

流動性の供給とは、ある重大な事象が生起したとき、専門的知見をもつ投資家は、類似した投資判断を形成する可能性が高く、売り一色、もしくは買い一色というように、同一方向への売買行動が誘発されるのに対して、投機や心理的動揺のように、全く異なった行動様式をとる投資家がいて、反対方向の売買を行えば、需給が調整され得るということである。

主流派の市場理論においては、株式市場には、専門的知見の有無、経験の深度、行動動機などについて、様々に異なる投資家がいて、好き勝手に取引するからこそ、価格の公正性が保証されるとされていて、故に、素人の個人投資家も含めた多様な市場参加者が必要だと考えられているのだ。

この理論を徹底すれば、専門家の価値評価に基づいて価格が形成されるのではなく、市場に現にある価格が価値を示していることになるから、価値評価にかかわる専門的知見は不要になる。実際、そうした理論的背景のもとに、パッシブ運用、即ち、インデクス運用が普及拡大しているわけである。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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