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動画でもご報告させていただいております。
1. 概略
中野サンプラザの再開発計画(総工事費2639億円)は2024年7月、施行予定者である野村不動産が東京都へ施行認可申請をした。その翌月8月に、突如して900億円超の増額となることを施行予定者から中野区に伝えられる。一カ月間でのこの増額は信じがたく、プロジェクトの全体マネジメントができなかった責任の所在、900億円の穴埋め手法などが議論され、中野区議会としては行政に相応の対応を求めた。
2024年11月までの経緯については、「新・中野サンプラザ整備の中断をどう乗り越えるべきか」を参照されたい。
そして施行予定者の見直した事業計画は、条件を満たせず、サンプラザ計画は施行予定者との基本協定書を解除する方針となり、白紙となった。
中野区議会議員として、議会の中からみたこの度の顛末について説明する。

図1 中野サンプラザ再整備計画周辺地図
2. これまでの経緯
(1)総事業費900億円増加で、中野サンプラザ再計画が頓挫
中野サンプラザ・旧中野区役所の土地を活用した中野サンプラザ再整備事業は、2024年7月上旬に施行予定者(代表:野村不動産)が総事業費2639億円として、東京都へ施行認可申請した。しかし2か月も経たない8月下旬、施行予定者は人件費・物価高騰により、総事業費が900億円増額したため、事業を進められないと中野区へ伝えた。2024年11月、中野区は2025年3月までに施行予定者との事業継続の可否を判断することとした。
施行予定者は事業採算性を高めるため、
- 分譲住宅面積を4割から6割へ増床することで収入を上げる
- 建物高さ262mのシングルタワーからそれよりも低いツインタワー(図2)に変更し、特殊工法を省き支出を下げる
などの提案をした。中野区は「施設整備のコンセプトや必要機能は概ね満たされているものと考えている」などの見解を示していた。

図2 施行予定者(野村不動産)が示した事業計画の見直しイメージ(2025年1月)
しかし議会は猛反発、
- 中野区民の大事な資産を売り払って、サンプラザのDNAに1%もなかった分譲住宅が6割となるタワーマンションができること、
- ツインタワー案は、2021年のコンペで次点(不採用)の企業が提出した計画(図3)に近いこと
などから、施行予定者に再考もしくは事業継続しないことを求めた。

図3 コンペで次点(不採用)の企業が提出した計画(2021年)
(2)施行予定者との事業継続が未決のまま令和7年度予算審議始まる※
※ 予算審議中、再整備は白紙になっておらず、その時点における表現
2025年2月、令和7年度当初予算案、一般会計予算約1950億円の審議があった。一般会計の歳入は、使途が制約されず、どのような経費にも使用できる「一般財源」、国都から交付・補助され、使途が特定されている「特定財源」と分けられる。一般財源は約1038億円、特定財源は912億円であった。中野区の歳入のポテンシャルは一般財源の約1000億円である。
そして令和7年度当初予算には、サンプラザ再開発の良し悪しを第三者が評価する項目があった。しかしその手法は議会、区民に納得感を与えるものではなく、行政の考えにお墨付きを与えるだけの予算であった。評価委員会で計画を進めることを非としても、事業はやめないと担当者の答弁であった。そのような評価委員会は不要と判断、自民・公明・無所属議員で過半数の票数を得て、削除した。予算が修正されるのは45年ぶりのことであり、中野区政の混乱を表している(参考:中野区HP)。この修正案は私、加藤が提案代表者を務めさせていただいた。
また当面の間、中野サンプラザ再整備が行われないため来年度予算の枠組みに大きな変更が必要となった。再整備が実行に移されていれば、中野区は663億円の価値がある旧区役所庁舎・中野サンプラザ等を野村不動産に売却し、転出補償金約400億円の収受、および新サンプラザ内に263億円分の権利床を権利変換という形で取得する予定であった(図4)。中野区の歳入のポテンシャル1000億円であることから大きな金額である。
その転出補償金400億円の使い道は、中野サンプラザの土地建物を所有する株式会社まちづくり中野21(以後、MN21:中野区が株100%所保有)の解散に必要な43億円の借金返済、MN21の不動産売却益で生じる法人税100億円納税を予定していた。中野サンプラザ土地建物の価値は354.5億円であり、この売却益におよそ30%の法人税がかかる試算である。また新役所整備の借金116億円の返済も想定していた。

図4 本プロジェクトにおける中野区の収支
(中野区委員会資料などから著者作成)
しかし転出補償金がなくなることで、借金を返すどころか、支払う必要がなかった経費が発生する(図5)。維持管理経費はサンプラザの固定資産税2.22億円/年、旧庁舎・サンプラザの閉鎖管理費4,800万円/年、2004年サンプラザ購入時の借入金43億円の利子6,600万円である。
また新区役所整備の借入金116億円の利子7,600万円があり、併せて年間4.12億円の費用が必要である。これは2024年11月段階における区からの答弁を参考に作成している。

図5 サンプラザ再開発が白紙になり生じる経費(金額:2024年11月段階の積算)
この状況において、中野区は少なくとも借金の利子を払い続けることを避けるため、元金の返還を決めた。そして転出補償金400億円の収受がなくとも来年度および後年度の予算編成はできると明言した。
図4における「サンプラザの借金約43億円」は令和7年度に全額返済予定、「法人税約100億円」は野村不動産に売却しないために現段階では不要、「新区役所整備借金約116億円」は4・5年かけて返済していくとのことである。
借金の早期返済のために43億円+116億円=159億円が必要であるが、図6に示すように現在500億円以上の基金残高(貯金)があるため、この数年であれば財政運営上、やりくりできる範疇である。

図6 中野区の基金残高(貯金)
青色が区の想定、他色が著者シミュレーション
しかし現在の中野区政は区民サービスのランニングコストがここ5年間平均約15%/年の増額している。また物価高騰で特に工事費は中野サンプラザの事例からもわかるように増加し続けているにも関わらず、財政当局はインフレをほぼ勘案していないため、近い将来に財政運営は大変厳しい状況になると考える。
詳しくは前稿「インフレを勘案した自治体の財政運営:中野区を事例に」を参照されたい。
(3)総務委員会にて再開発白紙の報告
紆余曲折あり、中野区は3月11日、議会において中野サンプラザ再整備計画を白紙とすることを報告した。当初、中野区は施行予定者の見直した事業計画で進めることが既定路線であったが、明確な理由を示さずに中野区は施行予定者との基本協定を解除する予定となった。
区民の声が行政に届いたのか、望まぬ再開発とならず安堵するところだが、要所でその判断理由が一切説明されない現在の区政の進め方に疑義が生じる。これはサンプラザ問題に限ったものではない。また、このままでは建物は廃墟として、そのまま残存していくこととなり、早急に方向性を示す必要がある。

表1 サンプラザ再開発これまでの経緯
3. 議会がサンプラザ再開発に関する議決権を取り戻す
議会は、2024年3月に旧中野区役所の建物の売却を許可する議案を可決した。これがサンプラザ再開発において議会がプロジェクトの是非を判断する最後の議決案件であった。そのため、この度の見直された再開発を「区議会で止めろ」などとご指摘を受けるも議会にはその手段がなかった。
建設費は900億円増加、議案可決時とは全く異なる事業計画になることから、「議案は無効」ではとの問いに対して、区は有効と主張した。またサンプラザ再開発に関する是非の判断をする、別の機会を求めたところ、検討しないとのことだった。
これは、つまり今後、サンプラザ再開発は区民の代表である区議会議員にその賛否を問うつもりはなく、区長が独善的にプロジェクトを進めるということを意味していた。
そのため、3月7日中野区議会本会議にて議員提出議案「議会の議決すべき事件等に関する条例の一部を改正する条例」を自民・公明・無所属議員全員が提案者となり上程した。これはサンプラザの再整備を行う施行予定者が中野区とかわす基本協定書を新規締結・変更・解除の3つの機会において、議会の議決を必要とするものである。
結果、議会において全議員賛成、全会一致で可決した。区長は区議会の同意を得なければ、サンプラザ再開発ができなくなった。
4. 今後の展開
計画は頓挫し、廃墟の中野サンプラザの維持管理費、新区役所建設費の借金で莫大な費用が発生する予定であったが、上述したが、来年度より借金を返すことでランニングコストの削減をする。また、さらに費用を削減するために中野サンプラザを中野区へ寄付することを私、加藤が中野区に提案した。
中野サンプラザは、中野区が100%株を所有する株式会社まちづくり中野21が土地建物を所有している。同社は固定資産税を年間2.22億円程度支払っている。現在、中野サンプラザは閉館し、収入がないため、この支払いはオーナーである中野区が実質負担する必要があり、それは中野区の税金が原資である。
そこで、この状況を打開するために同社から中野区へ寄付をする。何故ならば、自治体が土地建物を所有していても固定資産税がかからないためである。これが実現の方向に進み、中野区の血税年間2.22億円を守ることができる予定である(図7)。

図7 サンプラザの中野区への寄付の意味
サンプラザ借入金43億円と新庁舎借入金116億円の返済が実行されれば、懸念されていたサンプラザ再開発計画が白紙になり、生じる費用は閉鎖管理費のみとなる。
厳密にいえば、中野サンプラザ南側広場のみ開放するということで新たな経費が発生するが、年間4億円かかると思われていた費用は数千万へと激減することができた。サンプラザの中野区への寄付よって、約3億円の財政効果を生み出すことに成功しそうである。

図8 サンプラザ再開発が白紙になり生じる経費の圧縮後(金額:2024年11月段階の積算)
必要経費がかなり縮減できたことで腰を据えて、プロジェクトを考える時間ができたのではないか。現存のサンプラザの有効活用の検討、施行予定者の再選定、物価高騰等でコンセプト維持できなければ仕様書の書き直し、権利変換方式から定期借地の検討など様々な検討が必要である。
中野サンプラザの中野サンプラザ・旧中野区役所跡地のポテンシャルを最大限に引き出すために、区民の皆様の声を伺い、様々な調査・研究を行い、再び中野のにぎわいの中心となるように責任をもって、再開発計画を立案していく。