アメリカは株安・ドル安に加えて債券安の「トリプル安」

池田 信夫

米国債が暴落している。長期金利は4.5%近くまで上がった(債券価格は下落)。ドルも143円まで下がり、株価も下がり続けている。株安・ドル安に加えて債券安のトリプル安は、2022年の「トラスショック」と同じパターンで、金融危機をまねくおそれがある。 

米国債金利(10年物)CNBC

発端はミランCEA委員長の米国債課税論

震源は次のツイートだった。

この元ネタは、ミラン米経済諮問委員会委員長の講演(ハドソン研究所 4/7)である。

  • グローバル公共財の提供
    アメリカは、世界の安全保障と金融の安定(ドルや米国債)という「公共財」を提供しているが、それには大きなコストがかかっている。
  • 貿易赤字と製造業の衰退
    長年の貿易赤字により、米国の製造業と労働者は大きな負担を被っている。特に中国のような国との不公正な貿易がその原因の一つ。
  • アメリカ第一の経済戦略
    トランプ政権は、他国の「ただ乗り」をやめさせ、アメリカの製造業や国益を最優先にする政策を推進している。
  • 公平な負担分担(バーデン・シェアリング)の提案
    他国もアメリカの安全保障と金融システムの恩恵を受けているなら、それに対するコストを共有すべきだと主張。
  • 提案された対策
    1. アメリカへの輸出に関して報復なしで関税を受け入れる
    2. 米国市場へのアクセスを公平にし、米国製品をもっと購入
    3. 米国からの国防装備の購入増加
    4. アメリカ国内に工場を建設・投資
    5. 外国人が米国内で保有する米国債への課税

このうち問題になったのは、5番目の米国債への課税である。1980年代までは米国債の金利に30%源泉徴収する制度があったが、1984年に廃止された。これはアメリカの財政赤字が大きく、米国債を世界の投資家に買ってもらうためだった。

ミランはその制度を復活することをほのめかしている。これは正式に法案化されたわけではないが、実施されると、日本政府が保有する100兆円の米国債の金利(年間約5兆円)にも課税される。

これを恐れて海外の投資家が米国債を売って暴落したのだが、トランプは今のところ態度を変えていない。これが続くと海外の銀行が米国債を売り、それを保有している金融機関に多額の評価損が出て、トランプ関税が金融危機に発展するおそれがある。