トランプ大統領インスタグラムより
(前回:トランプ政権「常識の革命」レポート②:DOGEが切り込む腐敗的既得権益)
さて、ここまで「米国第一主義政策」に基づいて「常識の革命」を論じてきたが、この先はトランプ政権が取り組む個別の重要トピックを論じていきたい。
お金の流れから考えるロシア・ウクライナ戦争
筆者は軍事アナリストでも無ければ、ロシアやウクライナ情勢に詳しい訳でもないので、そういった観点からこの戦争を語るつもりはない。私はいち経営者に過ぎないので、本稿では「お金の流れ」という観点から、この戦争を少し見ていきたい。
前出の常識の革命の2つ目の柱であるエネルギーのパートでも少し触れたが、米国がロシアを富ませることを承知で自国のLNG輸出を控えたことは疑問である。いくら環境問題と言っても、既に輸出をしてきたものを止めることによる効果のほどは不明だ。さらに、前出の要望書にも記載があったように、米国が輸出を控えたとて、消費国の需要と消費量が減るとは考えにくい。つまり、CO2の排出量そのものは変わらないと考えて良いだろう。
米国が本当にロシアを弱らせ、ウクライナを支援したければ、LNGの輸出量を増やすことはあっても、減らすということは理屈に合わない。選挙を見据えた環境保護団体向けパフォーマンスとの見方もあるが、他にいくらでもパフォーマンスのやりようがあったであろうし、何より同盟国のエネルギー安全保障を軽視することと全く釣り合わない。
そして、実は蓋を開けてみれば、なんと2024年の米国のLNG輸出は前年比4.5%増で若干のプラスという結果に終わっている。環境保護を理由に日本や欧州への輸出は規制したが、ラテンアメリカなどへの輸出を強化し、結果的に輸出量は増えて着地した※51)。
加えて、やはりと言うべきか、ロシアの直近2024年のエネルギー輸出見通しは前年比130億ドルの増加で2397億ドルであり、「西側諸国による制裁が十分な効果を上げていないことが浮き彫りになった」とロイターは報じている※52)。
米国のLNG輸出が前年比プラスで着地したことで、環境問題を理由に規制をしたことはそもそも説明がつかなくなった。結果的には、日本やヨーロッパのロシア依存を促進しただけである。
そして、お金の流れという観点では、やはり軍需産業は無視できない。実際、ロシア・ウクライナ戦争が勃発してから米国のGDPや経済に寄与しているものは、なんと言っても軍需産業である。
米国務省によると、2023年の外国政府に対する軍装備品の販売額は前年比16%増の2380億ドル(35.7兆円)と、過去最高を記録※53)。なんと2024年は更に記録を大幅に更新し、前年比29%増の3187億ドル(47.8兆円)だった※54)。
参考までに、過去最高を記録した2023年の日本の自動車輸出額は21.6兆円である※55)。驚くことに、倍以上の開きがある。
実は、米国の日本やEUへのLNG輸出規制は、お金の流れからすると米国にメリットがあると見ることもできる。上述したように、他の国々へ販売すれば売上減はそもそも回避できる上に、ロシア周辺国への輸出規制によって結果的に供給元となるロシアを富ませ、ロシアに戦争を長引かせる体力を与えることもできるし、EUや日本のロシア依存を高めることもでき、ロシアに対して強硬な姿勢に出にくい状況を作り出し、戦争を長引かせ、軍需産業で儲けることができる。
誤解を避けるために述べるが、この「戦争を長引かせて儲ける」という仮説は、あくまで経済理論上の話で、軍事的なアナリシスではないことを重ねてご承知おきいただきたい。そして注目したいのは、ディールの男と呼ばれるトランプ氏が、このスキームで儲けるつもりは無さそうだということだ。
戦争を単純に止めさせたなら、軍需産業が落ち込み、経済的な損失は大きくなる。損失を極力抑えるために、ウクライナとの鉱物資源権益の合意形成を図ろうとしているのかもしれない。個人的には、戦争を長引かせて儲けるよりも、鉱物資源で儲けて欲しいと願うものである。
ロシア・ウクライナ戦争に関するお金の流れで、もう1点気になるのは、トランプ氏やマスク氏が述べてきたような「汚職(横領)」や「キックバック」の可能性である。
実はゼレンスキー大統領自身が現地メディアのインタビューで「アメリカが議会を通じてウクライナ支援という名目で拠出した1770億ドル(26兆5500億円)のうち、実際に我々が受け取ったのは750億ドル(11兆2500億円)だ。しかも現金ではなく、武器によって提供された。1000億ドル(15兆円)はそもそも受け取っていなければ、その行方も分からない」と発言している※56)。
ちょっとどこかへ置いてきてしまったと言うには、あまりにも巨額すぎる。ゼレンスキー氏のこの発言からしても、支援という名のもとに汚職(横領)が横行しているのではないか、との疑念が深まるばかりであり、汚職の可能性を陰謀論と呼ぶのは逆に暴論になってしまう。
マスク氏は「ウクライナに送られた数千億ドルの真相を究明する時が来た」と2月28日にXにポストした※57)。お金の流れがしっかりと検証され、その結果が公になることを願うばかりだ。
陰謀論という暴論
ところで、トランプ氏は長く「陰謀論者」と揶揄されてきた。例えば、トランプ氏は新型コロナウイルスが武漢の研究所から流出したという説を支持していたが、当時はそういう考えは陰謀論扱いされた※58)。しかし今や、CIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)も研究所流出説を支持しており※59)※60)、もはや通説になりつつある。
更に言えば、DOGEの働きにより、武漢研究所の新型コロナウイルス研究にUSAIDの資金が流れていたことも発覚している※61)。また、新型コロナワクチンに重大な副作用があるとの論調も、当時は陰謀論と言われたが、今やイエール大学なども含めてその存在を認めるようになってきた※62)。
陰謀論というレッテル貼りは、安易に思考停止を促し、時に事実(ファクト)や科学(サイエンス)から目を背けさせる効果があり、大きな問題だと筆者は思っている。
実際に新型コロナワクチンの副作用については、言論規制があったことをフェイスブックやインスタグラムを運営するメタ社のマーク・ザッカーバーグ氏は1月に認めた。こうした事実が明らかになるのは、トランプ政権誕生がもたらした成果と考えている。
彼はインタビューで「コロナワクチンに関して、たとえ事実であったとしても、副作用の情報は削除するよう、バイデン政権から相当な圧力があり、基本的に取り下げなければならなかった」と、バイデン政権から言論規制の強い圧力があった事実を明かしている※63)。
この重大な話は、日本では残念ながらあまり話題になっていない。またメタ社は、「ファクトチェック」という名のもとに行われる言論規制が「政治的に偏り過ぎていて、異なる考えを持つ人々を締め出すために使われるようになってきた」とした上で、「言論の自由を取り戻すため」に、これらファクトチェック機能を取り止める決定をした※64)。トランプ氏はメタ社の方針転換を歓迎し、バイデン氏は批判をしている※65)。
マスク氏は、ツイッター(現X)が当時は検閲と情報規制をしていたことに嫌気が指し、言論の自由を取り戻すためにツイッター社を買収したことを明かしている。バイデン政権がメタ社に相当な圧力をかけていたのであれば、恐らく旧ツイッター社に対しても同様であっただろう。
マスク氏はハッキリとして口調で、「アメリカにおける言論の自由を守るために、私はXを買収した。そして、それが稼ぎを減らすことを意味するのであれば、それで構わない」とインタビューで語った※66)。
言論の在り方について、バイデン氏が目指すところと、トランプ氏やマスク氏が目指すところの、どちらの空間に読者の皆さんは住みたいだろうか。私は迷うことなく、トランプ氏とマスク氏が思い描く言論空間を選ぶ。
因みに、ザッカーバーグ氏が自社の社員向けに新型コロナワクチンに注意するよう呼びかけた動画が流出し、前出のプロジェクトヴェリタスが2021年2月に公にしたことがあった※67)。動画内で彼は「私はこのワクチンについて注意を促したい。人々のDNAやRNAを基本的に改変することによる長期的な副作用については、まだわかっていないのだ」と語った。
当時はその動画の信ぴょう性が疑われ、大手メディアはそれを取り上げず、相変わらず「安全」一辺倒の報道に終始した。しかし今考えると、当時のこの動画は真実だったと思う次第である。
さて、ここまで述べてきた各事例で明らかなことは、陰謀論のように聞こえる仮説であっても、頭ごなしに否定することは良いことではないということだ。
保健福祉省(HHS)長官に就任したロバート・ケネディ・Jr氏は、ワクチン懐疑派とされていたが、最近の彼の発言はバランスが取れたものになってきている印象だ。いま彼は、「ワクチンは極めて重要」「安全性などの情報の透明性こそが大切」と訴えている※68)。
特に情報の透明性については、我が国においても真摯に受け止めるべきだと考える。日本政府は、SNS偽情報の違法例を示す指針を策定することにしているが、政治的な武器として扱われないよう、注意が必要だ。
それよりも、まずは我が国においてもグーグル社やメタ社などが不当な言論規制をしてこなかったか、情報の透明性は十分に担保されていたのか、それらを明らかにしていくことを優先してもらいたいと願う。
ケネディ氏がHHS長官に就任してまだ間もないが、安全性を確認するために新規開発中の新型コロナワクチン(Vaxart社製)やノロウイルスワクチン(Moderna社製)の認可プロセスを一時中断する決定を既に下している※69)※70)。ワクチンを含む医薬品は、その安全性よりも世に出すことを優先してしまえば、甚大な被害をもたらす可能性があるので、ケネディ氏の慎重なスタンスに筆者は大いに賛成である。
最近になって我が国でも議論が活発化してきている新型コロナワクチンと超過死亡や健康被害との関連性に関しても、ファクト(事実)とサイエンス(科学)に基づいた議論が進むことを願っている。
常識の革命が真の革命たるには
トランプ氏が推し進める「常識の革命」における今後の最大の争点は、至る所で真に不正や汚職があったかどうかだと筆者は考えている。米国民の意見は二分した状態が続いているが、仮に不正や汚職があったことが法によって証明できれば、常識の革命への支持は一気に広まると考えている。
今後、DOGEはおそらくFBIやCIAと連携し、そのあたりの調査を進めると思われる。FBI長官に就任したキャッシュ・パテル氏は2月21日の就任演説で並々ならぬ覚悟を述べている※71)。トランプ氏やマスク氏が強硬なスタンスで積極的に大ナタを振り続けるのは、もしかしたら不正や汚職が必ず暴けると信じているからかもしれない。
いまアメリカでは「Epstein File(エプスタイン・ファイル)」の公開に多大な関心が寄せられていて、Xでトレンド入りもしている。ご存じない方のために、ここで概略をまず説明したい。
2019年に拘留施設で死亡した実業家ジェフリー・エプスタイン氏は、児童への性的暴行などの容疑で逮捕・有罪となった人物だが、彼が所有していた島で、有力政治家や著名人の児童買春を斡旋した疑惑が持たれている。
トランプ氏は以前より、この島へ訪れた人物リストや記録データ=エプスタイン・ファイルを公開すると公言してきた。トランプ政権誕生後、情報公開の責任者となったパム・ボンディ司法長官は、トランプ氏の意向に従ってFBIに関連資料の提供を要求し、FBIから200ページ分の資料を受け取ったが、内部告発者の情報提供により、それはFBIが保持する関連資料のほんの一部だったことが判明し、大きな問題へと発展している※72)。
ボンディ長官は、FBI長官に就任したパテル氏に対して、FBIが裏をかこうとした実態を共有し、改めて全ての関連資料を手配するよう求めた※73)。また、FBI内でエプスタイン・ファイルを隠蔽しようと画策した人物を洗い出し、処罰する構えも見せている。
パテル氏は、「隠蔽も、文書の紛失も、手をこまねくこともあってはならない。これを守れぬような前局員や現局員は、速やかに追及される」「発見したものはすべて司法省に提出し、十分に評価された上で、あるべき姿として透明性をもって米国民に公表する」として※74)、資料の確保に奔走中だ。もし順調にいけば、ファイルは恐らく近日中に入手され、全貌が公開されるかどうかといったタイミングにある。JFKファイルも先日公開され、内容の分析が続いている。
ボンディ長官がパテル長官に宛てた手紙
司法省HPより
本稿を執筆するにあたり、少なくない情報に目を通してきた。その上で、筆者の目には、トランプ政権のキーパーソン達が、決死の覚悟で腐敗的既得権益から民主主義を取り戻そうとしているように映る。なぜなら、その想いが彼らに無ければ、ここまでする必要は全くないからである。無難に4年間をやり過ごせばいい。
実際にマスク氏率いるテスラ社の株価は今年に入ってか45%近く暴落し※75)、至る所で不買運動が勃発している。いや、不買運動どころの騒ぎではない。多くのテスラ車が組織的な規模感で燃やされるなど、暴力的行為に晒されている※76)。
既得権はどの国にもあるが、その不正を暴き、転換をはかることは、規模感が大きければ大きい程、自分の身を危険に晒すことになる。並外れた覚悟がなければ、決して足を踏み入れない領域に既に突入している。ここまでの覚悟を示す政権は、今後も現れないかもしれない。マスク氏は、「今が官僚の独裁から民主主義を取り戻す唯一無二のチャンスだ。今しかない。今でなければならない」と述べている※77)。
常識の革命が真に人民のための革命たるには、この唯一無二のチャンスを逃さず、そして今後も手を緩めず、むしろ逆戻りを許さぬところまで突き進まなければ成就しないであろう。政治の在り方そのものを根本から覆すという、歴史に刻まれる無血革命になるか、あるいは4年という期限付きの祭りごとに終止してしまうのか。その分水嶺に法という一線があり、越えるか越えないかで、その後の景色は全く異なるであろう。
本当に腐敗的既得権益や非人道的な行いが蔓延っているのであれば、その中枢にいる人たちには法的な裁きと、それに伴う社会的な制裁を与え、同じことを繰り返す意欲と基盤を消し去らねばなるまい。トランプ氏の革命が正しい道であって、かつそれが客観的に示されたならば、後戻りを許さぬところまで突き進めばこそ、きっと世界は良い方へと向かっていくだろう。
トランプ氏の常識の革命が真の革命となるか。その行方から今後も目が離せない。
※ 本記事は短縮版です。『湊合』令和7年春号で詳細を確認いただけます。
■
※51)Reuters, U.S. LNG exports soar in December, lifting full-year growth by 4.5%
※52)Reuters, ロシア、今年の石油・天然ガス輸出収入見通しを上方修正
※53)Reuters, US arms exports hit record high in fiscal 2023
※54)Reuters, US arms exports hit record in 2024 on Ukraine-related demand
※55)JAMA一般社団法人日本自動車工業会, 基幹産業としての自動車製造業
※56)One America News Network, Zelenskyy Claims Ukraine Only Received $75B Of $177B In U.S. Aid, Doesn’t Know ‘Where All That Money Went’
※57)X, @elonmusk
※58)Yahoo!ニュース, 平和博, 新型コロナウイルス:「生物兵器」の陰謀論、政治家やメディアが振りまく
※59)Reuters, 新型コロナ、自然界発生より研究所から流出した可能性高い=CIA
※60)NHK, 新型コロナ発生源 “中国の研究所から流出可能性高い”FBI長官
※61)Yahoo News, USAID-Funded Pandemic Research Failed To Spot COVID or Ensure Chinese Transparency
※62)Yale News, Immune markers of post-vaccination syndrome indicate future research directions
※63)CNBC News, Mark Zuckerberg says Biden pushed Meta to remove posts on vaccines
※64)CNN Business, Meta gets rid of fact checkers and says it will reduce ‘censorship’
※65)日本経済新聞, メタのファクトチェック廃止、バイデン氏「恥ずべきこと」
※66)X, @DimaZeniuk
※67)X, @JamesOKeefeIII
※68)University of Minnesota, CIDRAP, Kennedy faces tough questioning on vaccine views at HHS confirmation hearing
※69)FOX News, HHS pauses $240 million Biden-era project to create new COVID vax
※70)Reuters, モデルナ、第4四半期売上高が予想超え ノロワクチン試験一時中止
※71)The National Desk, YouTube, Kash Patel made his first speech as FBI Director
※72)Fox News, Epstein files: Pam Bondi sends note to Kash Patel accusing FBI of withholding docs
※73)Department of Justice, Letter from Attorney General Bondi to FBI Director Patel February 27, 2025
※74)X, @FBIDirectorKash
※75)Bloomberg, 米テスラの投資判断引き上げ、株価下落で投資妙味
※76)Fox News, Tesla vehicles, dealerships and factories under attack
※77)X, @elonmusk