トランプ大統領はウクライナを訪問すべきだ

ロシア軍のウクライナ攻撃がここにきて一層激しくなっている。AFP通信によると、ロシア軍は13日朝(現地時間)、ウクライナ北東部の都市スムイを攻撃し、多くの民間人、子供たちが犠牲となった。ウクライナ側の発表によると、ロシア軍のミサイル攻撃で少なくとも34人が死去、15人の子供を含む117人が負傷した。

ロシア軍の攻撃を受けたスムイ市民への連帯を呼び掛けるゼレンスキー大統領、2025年04月13日、ウクライナ大統領府公式サイトから

オーストリア国営放送(ORF)はニュース番組でスムイ市の状況について報じていた。そのシーンを観て、ロシアの文豪トルストイが「戦争と平和」の中で「如何なる戦争も人間性を奪う行為だ」という趣旨を述べていたことを思い出した。

13日はロシア正教会にとって復活祭を迎える聖週間の初日だ。あまり意味がないかもしれないが、ロシアのプーチン大統領は敬虔なロシア正教徒を自認している指導者だ。そのプーチン氏が聖枝日、軍にスムイ市中心部の攻撃を命令したことになる。民間人への攻撃は明らかに国際人道法に違反する犯罪だ(国連のグテーレス事務総長)。

トランプ米大統領のウクライナ特使キース・ケロッグ氏は、ロシア軍のスムイ市攻撃について、「良識の範囲を超えている」と述べた。トランプ氏自身は「ひどい状況だったと聞く。ロシア軍の攻撃は間違いだ」と大統領専用機内で語っている。一方、ウクライナのゼレンスキー大統領は、現地の状況を把握してもらうためにトランプ大統領にウクライナ訪問を要請している。

ウクライナの情報筋によると、ロシア軍は国境から遠くないスムイ市に向けて弾道ミサイル2発を発射した。市の救助隊員によれば、「ロシア軍は多くの人々が路上にいた時に市の中心部を攻撃した。車、バスに乗っていた市民、家屋にいた人々が襲われ、死亡した」という。

ロシア軍はウクライナ軍をロシア領クルスク近郊から押し戻して以来、国境から50㌔近くにあるスムイ市に攻撃を始めた。スムイ市はそれまではロシア軍の攻撃を免れていた。

ケロッグ氏はXで「元軍司令官として、攻撃目標の計画についてはある程度理解しているが、これは明らかに間違っている」と発信している。スムイ市中心部への攻撃は、米国のスティーブ・ウィトコフ特使がモスクワでプーチン大統領と4時間半にわたる長時間会談してから2日後に起きた。会談は友好的で生産的だったと報じられていた。スムイ市攻撃はロシア側の返答なのかもしれない。

スムイ市の攻撃について、欧州の指導者たちからも厳しくロシア批判が出ている。ドイツのショルツ首相は「野蛮な攻撃」と批判し、フランスのマクロン大統領は「ロシアだけが戦争の継続を望んでいることが改めて明らかになった」と述べている。

一方、イタリアのメロー二首相は「スムイ市のロシア軍の卑劣な攻撃がキリスト教徒にとって重要な聖枝祭の日に起きたことを忘れてはならない」と強調している。ゼレンスキー大統領もオンラインネットワークで「敵のミサイルが、普通の生活が営まれていた普通の通りを襲った。それだけではない。人々が教会に行く日、聖枝祭の日に起こったことだ。こんなことが出来るのはろくでなしだけだ」とプーチン大統領を非難している。

トランプ大統領は昨年の大統領選でウクライナ戦争の早期停戦を公約に掲げた。トランプ氏はウクライナ戦争を「バイデン(前大統領)が始めた戦争であって、私の戦争ではない」と主張する一方、「私ならば戦争を短期間で終わらせることが出来る」と豪語してきた。

それではトランプ政権発足後のウクライナの「その後」はどうか。米国はロシアに接近し、2月と3月にサウジアラビアでウクライナとロシアの代表者との会談を行った。同時に、ウィトコフ氏はモスクワ訪問前に、クレムリンに対し、より寛容な姿勢を取るよう求めるなど、トランプ政権のロシアへの融和的な姿勢が目立ち始めた。一応、ロシアとの交渉では、エネルギー関連施設への攻撃停止、黒海の安全航行確保で合意ができたが、プーチン大統領はウクライナとの無条件停戦案をこれまで拒否している。

一方、英国とフランスは停戦合意に備え、ウクライナの平和を確保するための解決策を模索し、「有志連合」を結成し、北大西洋条約機構(NATO)などの参加を得て、ウクライナに多国籍ミッションを派遣することを検討している。なお、ケロッグ氏は、英国紙タイムズのインタビューで、停戦後に英軍またはフランス軍が管理する「第二次世界大戦後のベルリンに似た地域設定」を提案している。ただし、その場合も米軍は参加しないという。

2024年9月 ゼレンスキー大統領とトランプ大統領 キーウポストXより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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