新型コロナウイルスのパンデミック発生から5年以上が経過したが、ウイルスが動物から人間に感染したのか、中国の武漢ウイルス研究所(WIV)からの流出で発生したかは依然として不明だ。そのような中、米国ホワイトハウスは18日、Covidgovウェブサイドの改訂版で「新型コロナウイルスはWIVから流出した」という公式見解を表明した。

Covidー19の武漢研究所流出説を公式発表するホワイトハウスのウェブサイトからスクリーンショット、2025年04月18日
ホワイトハウスのウェブサイトによると、ハリウッド映画のポスターに似たこのページには、「LabLeak」というタイトルが大文字で表示されている。二つの言葉の間には、トランプ米大統領が立っている。タイトルの下には手書きで「COVID-19の真の起源」と書かれている。
ホワイトハウスが新型コロナ起源でWIV流出説を支持する理由として、1)新型.ウイルスは自然界には存在しない生物学的特徴を持つ。、2)WIVでは過去、生物安全基準が不十分な中で機能獲得研究などが実施されていた。3)2019年秋、華南海鮮市場でCOVID-19が確認される以前に、WIVの研究者がCOVID類似の症状を示していた事例が確認されている、等を挙げている。
そのうえで、元アメリカ国立アレルギー感染症研究所所長アンソニー・ファウチ博士を「自然発生説を主張し、米国民を誤導する役割を果たした」と厳しく批判している。
今年に入り、武漢ウイルスの発生源問題で興味深い動きが出てきている。新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」と「WIV流出説」の2通りがあるが、米中央情報局(CIA)は「研究所事故の可能性は低い」との立場を表明してきたが、トランプ米政権がスタートした直後の1月25日、CIAの新長官ジョン・ラトクリフ氏は「中国の研究室から流出した可能性が高い」とする新たな評価を明らかにしているのだ。CIAは「入手可能な情報によれば、研究所起源説が、自然発生説より可能性が高い」と説明したが、具体的な理由については何も言及していない。
ちなみに、独週刊誌シュピーゲルによると、独連邦情報局(BND)は昨年秋、CIAに2020年にWIVなどから密かに入手した機密資料・情報を提供している。公的なデータの分析に加え、「サーレマー」というコードネームで行われた情報機関の極秘作戦で入手した資料も含まれる。資料の中には、中国の研究機関、特にウイルス研究の最先端機関のWIVからの科学データや、自然界のウイルスを人為的に改変する「機能獲得(Gain-of-Function)」実験のリスクに関する証拠や、研究所の安全基準違反を示す多数の資料も含まれていたという。
ホワイトハウスのサイトでは「メディア、政治家、保健当局、そして米国の著名な免疫学者ファウチ氏がウイルスの自然起源説を広めているが、ウイルスが中国の大都市武漢の研究所から発生したという証拠は数多くある」と主張している。
米国ではこれまでFBI、米エネルギー省、そして今回、CIAとホワイトハウスがWIV説を支持したことになる。例えば、米上院厚生教育労働年金委員会(HELP)の少数派監視スタッフの共和党議員らが15カ月間にわたり調査、研究して作成した「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」が2022年10月下旬、公表され、関心を呼んだことがある。結論として、「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19のパンデミックは、研究関連で生じた事件(事故)の結果である可能性が高い」と指摘、「WIV流出説」を支持している。その後、米エネルギー省は2023年2月、中国武漢発「新型コロナウイルス」の発生起源がWIVからの流出との結論に至ったという。
バイデン政権時代は自然発生説が依然、支配的だった。最高の研究機関と人材を誇る米国がウイルス起源問題で今だ結論に至らないのは、中国側の情報隠蔽だけではなく、米国内の親中人脈、政治家、専門家、研究者、ロビイストがブレーキをかけてきたからだ。
ドイツの著名なウイルス学者クリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は南ドイツ新聞(SZ)とのインタビュー(2022年2月9日)で、武漢ウイルスの解明を阻止しているのは中国側の隠蔽姿勢にあると明確に指摘したうえで、「実験を知っていた米国の科学者たちの責任」にも言及している。
米国には新型コロナウイルス感染起源を知るうえで貴重な学者がいる。彼らは過去、WIVと接触があり、中国人ウイルス学者、「コウモリの女」と呼ばれている新型コロナウイルス研究の第一人者、WIVの石正麗氏と一緒に研究してきた専門家たちだ。
ウイルスの機能獲得研究、遺伝子操作の痕跡排除技術は、米ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授、そして英国人動物学者で米国の非営利組織(NPO)エコ・ヘルス・アライアンス会長のペーター・ダザック氏らとの共同研究を通じてWIVの石正麗氏が獲得していった内容だ。ダザック氏らは米国の税金でWIVのコウモリ研究を支援してきた。米国の感染症対策のトップと言われるファウチ博士は長い間、WIVと関係を有してきた専門家だ。
なお、バイデン米大統領(当時)は1月20日、退任直前にトランプ現大統領の政敵と見られる人物に対して予防的恩赦を与えたが、その中にファウチ博士の名前があった。なぜバイデン氏は免疫学者に予防的恩赦を与えたのか。理由は明らかだ。ファウチ氏は武漢ウイルスの事情や米中間の科学者交流を熟知しているからだ。トランプ政権がファウチ氏を改めて公聴会などに呼びだす可能性が出てきた。バイデン氏はなぜかそれを恐れているのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






