消費税の嘘を信じていないか?税理士が語るインボイスと消費税の真実

Candra Ritonga/iStock

インボイス導入時にも「消費税は預かり金ではないので益税なんかない。益税解消を目的とするインボイスは要らない」との主張がされたが、これもまったくの嘘だ。

確かに「消費税は預かり金ではない」というのは本当だ。源泉所得税のように、事業者に徴収義務が課されているわけではない。

したがって、法的には預かり金ではない。

これは、「国に納税するための預かり金のようなものだから、払うのは仕方がないよね」と価格転嫁を促し、事業者の負担を軽減するために、財務省が使った方便である。

嘘と言えば嘘だが、こうでもしなければ価格転嫁はさらに難しくなり、事業者の負担は一層重くなっていただろう。

「消費税と明示して上乗せされた代金を、『あれはうちの売上の一部だ』などと言って、消費者が素直に支払ってくれるだろうか?」

「預かり金じゃないから益税はないという判決もあるぞ」という話もあったな。

これも巧妙な切り取りだ。

確かに「消費税は預かり金ではなく売上の一部だ」と書かれた判決文は存在する。

ただしそれは、免税事業者による益税の存在を否定したものではない。

その判決文の直後には、「とはいえ、免税事業者にピンハネの余地があるのは事実であり、納税したほうがよいのは間違いない」と、真逆のことが述べられている。

その手前で都合よく切るなよ。

とはいえ、判決文の原文にたどり着ける一般人はほとんどいない。だから、都合よく切り取ってもバレにくい。

それに、この裁判自体が「免税や簡易課税があるのは不公平。だから消費税は違憲だ」と、消費税反対派が起こしたものだった。

裁判所はこれに対し、「それはそうだが、導入したばかりでもあるし、益税といってもせいぜい3%。事務負担の増大と引き換えにするよりは、多少の益税には目をつぶってもよいのでは」と判断したのだ。

それを逆手に取って、「だから益税はない」と主張の根拠にしたのは、かなり筋の悪いやり方だ。

そもそも「預かり金じゃないから益税はない」という主張自体が支離滅裂だ。

同じ税制のもとで、納税義務のある人とない人がいれば、納税しなくてよい人が得をするのは明らかだ。

税理士が、設立後2期は納税義務がないことを利用して、個人事業から法人成りさせたり、複数法人の設立を提案していたことは周知の事実だ。

それを今さら、「消費税に益税はない」などと、どの口が言うのか。

だいたい、インボイスと益税には直接的な関係はない。

もちろん、結果的には関係するが。

消費税の課税標準は、実際には事業者の「売上」である。

しかし、流通過程で全事業者の売上に課税してしまえば、税の重複が生じる。

仕入れや経費の支払いは、相手側にとっては売上であり、そこに消費税が課税される。

であれば、支払った側ではその消費税を控除できるようにしよう、という仕組みだ。

ところが、日本ではとにかく制度の導入を優先した結果、実際に支払先が納税しているかどうかの証明は求めないという、ずさんな制度となっていた。

税率が3%だった頃ならまだしも、5%、8%、10%と上がり、今後さらに上がる可能性もある以上、きちんと納税を確認する制度が必要となった。

それがインボイス制度である。

ずさんな制度を正そうとすれば、当然、事務負担は増える。しかし、それは正しい方向への転換なのだ。

付加価値税を導入している国で、インボイス制度を採用していない国はもはや存在しない。

日本だけが、唯一「補助輪付きの付加価値税」を続けてきたわけだ。

それだけ、付加価値税においてインボイスは当然の制度ということだ。

とはいえ、零細な免税事業者からすれば、「そんな益税なんか手にした覚えはない」と言いたくなるのも無理はない。

だが、それが本当に手元に残っていたかどうかは、また別の話だ。

それは益税かどうかとは関係なく、発注者とのパワーバランスによって誰がその分を吸い上げたかという話にすぎない。

少なくとも、消費者が「国に届くなら仕方がない」と納得して負担した消費税が、国に届かず、流通過程のどこかで力を持った者の手元に残っていたのは事実だ。

某大手美容外科が、実質的には雇用関係にある医師を個人事業主として院長に仕立て、報酬に消費税を上乗せせずに、自らは控除していたという事例もある。

このような偽装請負を、従来の消費税制度は誘発していた。そして、そのような不正を防止するために導入されたのが、インボイス制度なのだ。

とはいえ、我々税理士にとっても、インボイス制度は正直なところ嫌で仕方がない。

手間は増えるし、法人設立による益税かすめ取り提案は、オイシイ仕事だったのだから。

それでも、自分の利益のために、事実と事実を都合よく繋ぎ合わせ、自分の主張に合うようなフェイクを作り出すのは、プロフェッショナルとして俺はやらない。

それなのに、絶対に事実を知っているはずの財務省出身の政治家が「インボイス廃止」を主張しているのは、我慢して耐えている税理士として本当に許せない。

俺だって、「そうだそうだ!」って褒められたいんだよ。


 

(編集部より)この記事は、吉澤大(税理士)「2時間で丸わかりインボイスと消費税の基本を学ぶ」5刷40,000部@yomasaruのポストを、許可を得た上で転載いたしました。