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前回の記事「無知の悲劇?本も読まずに批判する愚かさについて」に対し、多くの反響をいただきました。しかし、その中には皮肉にも記事の内容そのものを体現するような批判も少なくありませんでした。
今回は、その背景に潜む「妬み」という感情について掘り下げていきます。
「正義の仮面」の下に隠れるもの
神田裕子著『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』をめぐる騒動の本質には、一部の批判者において「出版できない自分」を棚に上げ、出版した著者や出版社への「妬み」が影響している可能性があります。
出版という夢を持ちながらそれが叶わなかった人々がいます。また、同じテーマで発信しているにもかかわらず注目を集められない人々もいます。そうした人々の中には、「自分ではなく、なぜあの人が?」という感情が生じることがあるのです。
SNSは時として妬みを増幅させる媒体となります。匿名性という盾に隠れ、責任を問われることなく他者を誹謗中傷できるからです。
「この本はひどい」「著者は差別主義者だ」という批判の中には、その本を読んでいない人からのものも少なくありません。そうした場合、批判の目的は「本の内容を改善すること」ではなく、「自分の妬みを晴らすこと」になりがちです。
出版社へのねたみの構図
批判は著者だけでなく、出版社にも向けられます。「なぜ三笠書房はこんな本を出版したのか」という声の裏には、「なぜ私の原稿ではなくこの本を選んだのか」という出版社へのねたみが潜んでいる場合があります。
出版社は市場を見据え、読者のニーズに応える本を選びます。そこには厳しい選定基準があります。また、プロの編集者による価値判断もあります。
しかし、妬みに駆られた人々はそうした現実を直視できません。「コネだろう」「差別的な内容でも売れればいいのか」などと、自らの敗北を認めたくない気持ちから出版社を攻撃することがあるのです。
最も疑問なのは、批判者の中に本を読んでいない人が含まれるという事実です。これは「妬み」に基づく批判の致命的欠陥を示しています。本を読まずに批判するということは、「正義の仮面」をかぶった単なる感情の表出です。これは知的誠実さを欠いています。
妬みの連鎖を断ち切るために
EQ理論提唱者で社会心理学者のピーターサロベイ博士、ジョンメイヤー博士らの研究によれば、妬みは主に「怒り」「悲しみ」「不安」の感情から成り立っていることが知られています。妬みは単一の感情ではなく、これら3つの感情が組み合わさった複雑な心理状態です。
感情知能指数(EQ)が高い人は感情をコントロールできます。しかし、低い人は感情に振り回されがちです。神田氏と三笠書房に対するこれらの感情は、一部の批判者において「妬み」として表出している可能性があります。
妬みは自らを蝕む感情です。他者の成功を喜べない人は、自分の成長にエネルギーを向けることができません。出版された著者を妬み、出版社をねたむ行為は、結局のところ自分自身の可能性を閉ざすことになります。
真に知的な批判とは何か。それは対象をきちんと理解した上で、建設的な意見を述べることです。妬みの連鎖を断ち切り、より豊かな出版文化を育むために、私たちはまず「読む」という基本的な行為から始めるべきではないでしょうか。
尾藤 克之(コラムニスト・著述家)
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『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(神田裕子著)三笠書房
[本書の評価]★★★★★(90点)
【評価のレべリング】※ 標準点(合格点)を60点に設定。
★★★★★「レベル5!家宝として置いておきたい本」90点~100点
★★★★ 「レベル4!期待を大きく上回った本」80点~90点未満
★★★ 「レベル3!期待を裏切らない本」70点~80点未満
★★ 「レベル2!読んでも損は無い本」60点~70点未満
★ 「レベル1!評価が難しい本」50点~60点未満
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2年振りに22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)