投資の神様、ウォーレン・バフェット氏が2025年末での引退を表明しました。後任はグレッグ・アベル氏です。長年バフェット氏の後継者争いで数名の名前が取りざたされていましたが、2021年5月にバフェット氏がアベル氏が後継になることを表明していたので既定路線ということになります。ところでアベル氏はカナダ人で大学卒業まで生粋のカナダっ子、就職してからアメリカに拠点を移した形です。

グレッグ・アベル氏 バークシャー・ハザウェイ株主総会より
バフェット氏は現在94歳。その年齢にして巨大な投資、資産運用会社の責任者を務めるのは容易ではなかったと思います。長年ビジネスの相方だったチャーリー・マンガー氏が23年11月に亡くなった後、口には出さなかったものの自身の引退のプランを現実的なものと考え始めたのだと思います。もしも私の想像が正しいならバフェット氏が2年後に自分も引く、そしてそれまでにバークシャーハサウェイ社が今後も繫栄し続けるための準備に精力を傾ける、と考えたのではないかと思います。
バフェット氏が引退するという報は驚きをもって受け止めた方もいるのかもしれません。親交が深いとされるビル・ゲイツ氏は2023年ごろにバフェット氏はまだ20年でも30年でも第一線で活躍するだろうと述べていました。もちろん、その意味はそれぐらい元気で年齢を感じさせないということです。ゲイツ氏はそのインタビューの中で自分も20代の頃は週末とかバケーションなど考えたこともなく働いたが、今ではそこまでではないと述べており、69歳のゲイツ氏が25歳も年上のバフェット氏を哲人であり、鉄人であると認めています。
バフェット氏は11歳から投資を始めたとされます。私は14歳からです。バフェット氏は今日までに資産を22兆7千億円規模まで増やしました。私は爪の垢にも及びませんが、唯一自慢できるのはマネーに対してブレない精神力は似ているなと思います。何十年か前にバフェット氏が「あれだけ金持ちなのにハンバーガーとコーラが大好きだそうだ」という話を耳にした時、「自分もそうなんだよな、グルメとか全然無関心だし、自分もハンバーガーとコーラには目がない」と思ったものです。

ウォーレン・バフェット氏 同氏SNSより
バフェット氏の名声と地位と投資に対する感性が衰えなかったのは自分の富や名誉、周りからのちやほやや誘惑を断つことで維持したのだと思います。要は生活スタイルを変えないことが大事なのだと思います。アメリカでは成功者は一般庶民とどれだけ違いを出すかということを一つのテーゼにすることがあります。例えば今年秋に2年ぶりに参加する自己啓発コーチングで著名なトニー・ロビンス氏は自家用飛行機に乗る魅力がどれだけあるかを力説し、それを得た時、自分のビジネスがいかに飛躍してきたかを感じたものだ、と述べています。多分、ロビンス氏の考え方が典型的なアメリカンスタンダードなのだと思います。故に氏がコーチング業として財を成したとも言えます。
ところがバフェット氏にはそのような「イケイケどんどん」的な様子が窺えないのです。それはビル・ゲイツ氏も似ているかもしれません。私が90年代半ば、シアトルにある日本食レストランの副社長を兼任していた頃、脂が乗り切った当時のゲイツ氏が会社の仲間数人とやってきて、ごく普通の当時15㌦にも満たないランチ定食をほおばり食事をしながら仕事をするようなスタイルだったと報告を受けたのを鮮明な印象として持っています。
日本でも創業系の経営者は似ているところがあります。ニデックの創業者、永守重信氏も全くブレない人生です。昨年、永守氏が理事長を務める京都先端科学大学の学生をインターンでわが社に迎え入れ、私が作り上げたかなりユニークな2週間のインターンシッププログラムを終え、帰国後、その学生がインターンシップの成績優秀者の一人に選ばれ永守氏への報告会に招かれたそうです。永守氏はその報告を聞き終えた時、「そこの社長さんはいい車に乗っておるのやろうな」と言ったそうです。話の脈絡がわからないのでなぜ永守氏が私のことをそう思ったのかわかりませんが、もしもそのコメントにお応えできたなら「私は永守さんと同じでストイックな生活ですよ」と言いたいところでした。
踊らないこと、これが私の今日の言葉です。人は感情表現で極端に嬉しい時、「小躍りする」ことがあります。例えば受験の合格者発表の際、張り出された無機質な数字の羅列の紙の中に探し求める自分の受験番号を見つけた時は小躍りどころかジャンプしてしまうでしょう。私もその口でした。だけど、年齢を重ねるに従い、あるベンチマークに達成するごとに「次の戦いが始まる」と気を引き締めることばかりでした。つまり、目標達成は自分に新たなる重圧を課すわけで踊るどころか複雑な思いになるものなのです。
バフェット氏は数々の成功や目標達成後も決して踊らなかったと思います。私はリセットという表現を使いたいですね。成功者はリセットを繰り返し、過去を学び、未来を考えるのです。
バフェット氏はCEOは引退するも会社から身は引かないと述べています。バフェット流、自己管理の一環だと思います。適度な緊張感を維持し続けることでゲイツ氏のいうようにあと20年30年と冴えわたった日々を送るという意味だと理解しています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年5月4日の記事より転載させていただきました。