日本企業ってなぜ人が足りないくらいがちょうどいいの?と思った時に読む話

城 繁幸

先日、リストラ計画を発表した際のパナソニック社長の「人は足りないくらいでちょうどいい」という発言が話題となりました。

筆者もそれに関連して以下のような投稿をしたら予想以上の反響がありましたね。

あと別件ですがこっちもバズってます。

実は、「慢性的な人手不足」と「有給がなかなか取れない状態」というのは、終身雇用とは切っても切れない関係で、一種の風物詩みたいなものなんですね。

とはいえ、筆者以外に指摘している人がほとんどいない話なので、まだまだ知らない人も多いんでしょう。というわけで、いい機会なのでまとめておきましょう。

このタイミングなら、キャリア的な次の一手の参考にもなるはずです。

日本企業が雇用調整する方法

採用時に具体的な仕事内容を職務記述書で取り決めるジョブ型では、後から極端に業務量が増えるということは基本ありません。

突発的な繁忙期はありますが、職場のみんなが徹夜や休日出勤しなければならないような状況が続くなら、新規採用で対応するためです。

一方、わが日本国においては、突発的な繁忙期にくわえ、あらかじめ予想される繁忙期に対しても新規採用は控えられ、かわりに今いる従業員が残業で対応することになります。

恐らくほとんどの人が「年に数回の繁忙期があり、その時期は月100時間くらいは残業しないと回らない」という状況に身に覚えがあるはず。

でもあらかじめ繁忙期がわかっていても人員は増やされず、むしろ暇なときにちょうどよいくらいの人数しか配置されていないでしょう。

なぜか。それは終身雇用を維持するためなんですね。繁忙期にいちいち人増やしてたら、暇になったら誰かを解雇しないといけませんから。

人を増やしたり減らしたりする代わりに、残業を増やしたり減らしたりして雇用調整しているわけです。

だから、日本では会社側はもちろん、労組も長時間残業には基本的に寛容でした。国も残業時間に上限を設けず、永く青天井で放置してきたわけです。

さらに言うなら、日本企業で一般的なメンバーシップ制度(ジョブ型と対照的に入社時に具体的な業務内容が決められておらず、仕事量も内容も流動的)も、この仕組みと密接に結びついたものです。

繁忙期にみんなが業務量を青天井で増やせるためには、最初から業務範囲を明確に線引きせず、入ってくる仕事をどんどん手の空いた人間に振れる方が便利ですからね。

たまにXなんかで「同僚が退職した穴をみんなで頑張って埋めたら、翌年に欠員補充されるどころか枠が正式に減らされた」みたいな投稿している人がいますが、あれも同じですね。

別に業務量や範囲を定めているわけではないので、皆が頑張って回せるなら(管理部門的には)「だったら普段からそれでいいじゃん」ってなってしまうわけですよ。

結果、終身雇用を柱とする日本型組織では、長い目で見ると人手不足&長時間残業が慢性化する傾向があります。

余談ですが、「Geisya」「Harakiri」と同様に英語化された日本語に「Karoshi」があります。海外でも高額年俸をもらう金融業なんかで死ぬ人はいますけど、年収600万円くらいの普通のサラリーマンが死ぬのは日本だけなので、日本にしか無い奇妙な現象として、芸者、切腹同様にそのまま英語になっているわけです。

【参考リンク】死ぬまで働く日本の若者 「karoshi」の問題 BBC

死ぬまで働く日本の若者 「karoshi」の問題 - BBCニュース
日本人の労働時間の長さは世界でもトップクラスだ。若者たちの中には、文字通り死ぬまで働く者もいる。そこで政府に対し、対策の強化を求める声が上がっている。

それでこの過労死ですが、言うまでもなく「残業で雇用調整する終身雇用」の副産物ですね。

まあ一か月くらいの繁忙期なら残業だけでも回るんでしょうが、半年以上、企業によっては1年以上それが続いているケースも往々にしてありますね。個人ごとに業務範囲を定めることなく、入ってくる仕事をばんばん振るうちに気づいたら誰かがぶっ壊れていた、という話です。

一応、筆者自身は15年以上前からこの問題を色んな立場の人たち(経営者、労組の偉い人、政治家、労働弁護士、プロデューサー等)に説明してきましたけど、反応はおしなべて「終身雇用を守るためだから仕方ないよね」みたいな感じですね。

そもそも50年以上前からこの問題が存在しているにも関わらず、一向に解決する気配が見えないことからは、当事者(会社、労組ともに)に本気で解決しようという意欲がないことは明らかでしょう。

そういう意味では、パナソニックトップの発言は昔ながらの日本型経営にのっとったもので、特に過激でも目新しくもありませんね。

それに対して「長時間残業ガー」とか「過労死ガー」とか言ってる人達は、いい加減問題の本質である終身雇用にメスをいれるところまで発想を広げるべきなんじゃないでしょうか。

「大変だー大変だー」って騒ぐのはもう50年やったんだからそろそろ卒業しましょうね。

日本人が有給休暇を取るのが下手くそなワケ

では、もう一つの「なぜ日本人は有給休暇が取れないのか」はどうか。

こちらは終身雇用というより、そのプラットフォームであるメンバーシップ制が理由ですね。
業務範囲があらかじめ明確化されていないと、有給休暇というのはきわめて取りづらいものなんです。

たとえば、夏休みの課題があるとします。学校側が生徒に個別に課題を与えていれば、どう取り組むかは個人の裁量次第。

「自分は最初の2週間に集中して取り組み、後半の2週間は北海道旅行に行きます」なんてことももちろん可能です。

これが、たとえば「体育館の壁一面にクラスみんなで巨大アートを描く」みたいな課題だったらどうでしょう。

基本、完成するまで夏休みの間中みんなで毎日集まってシコシコやるわけですよ。

「オレ北海道行くから後半2週間よろしくな」とか普通言えませんよね。

言うまでもなく、この「担当を割り振らず、みんなで集まってシコシコ」パターンこそ、みんな大好き終身雇用のメンバーシップ型なんです。

以降、

・日本人が有給休暇を取るのが下手くそなワケ(後編)
・「会社のために死ねる人間」はもう会社も必要としていない

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Q:「社内でも職種によって給与に差をつけるべきでは?」
→A:「全社員をひとくくりにすることに無理があります」

Q:「氷河期世代の“救済”って、なんか宗教っぽくないですか?」
→A:「なんか成仏させようとしてるみたいですね」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’sLabo」2025年5月22日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。