AIはやっぱり仕事を奪うのか?:経営者にますます有利な経済構造に

AIが仕事を奪うのかという話はだいぶ前に何度か話題を振ったことがあります。あれからAIが我々の日常生活により浸透してきたこともあるので、久々に本件についてもう一度考えてみたいと思います。

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少し前にマイクロソフト社がエンジニア6000人を解雇すると発表しました。理由はプログラミングは人ではなく、AI君が担うから、であります。AI君は休まずに文句も言わず、そしてスーパー能力でたちまち仕事を完了してしまいます。AIの作業効率と人間が書くプログラムのコードの作成スピードと比べること自体が無意味な程になったということなのでしょう。以前、この話題を振った際には「AI時代に生き残るのはAIを使う人だ」とされました。ところが驚くことにAIを使う人になるはずのプログラマーが振り落とされたのです。

AI時代到来に於いて人間は職を失うのか、という議論に対して楽観論者はかつて何度か起きた産業革命の際には業務が再編されただけで相対的に職が減ったわけではない、よってAI時代がやってきても乗り越えられるだろう、という意見がありました。

私はそれについて楽観していません。かつての産業革命の時代は社会がまだ単純だったのです。そもそも産業革命の基本はエネルギー資源の変化がもたらしたものであり、世の中の構造は間接的変化であり、人の働き方も激変を伴う訳ではなかったであろうと推測しています。

ところが現代は仕事そのものが細分化され、各自が持つ能力はある特定の業種の特定の企業の特定の業務であり、その企業のやり方に応じた特定の流れやルールに沿って仕事をしています。人はロボットではない、とされますが、私から見れば同じ業務を毎日毎日繰り返し、熟練になればなるほど達観すると同時に転用が利きにくくなる弱点があるとも言えます。

雇用のミスマッチという言葉があります。これは雇用者と被雇用者の関係がうまくいかないことや人的需要と供給が合わないことを指すわけですが、人は世の中の変化にどこまで順応か、といえばそんなに簡単に変われるものじゃないと私は思っています。かつてウィンドウズ95が出て会社のおじさま方がキーボードなるものを見て「俺もこれを使うのか?」とおののきながらも人差し指で一つひとつキーボードを押しながらも時代の変化に一生懸命ついて行ったと思います。でも今の時代の変化は加速度がついており、一般人では到底ついていけないレベルにまで発展してしまったのです。

それと人には向き不向きがあります。緻密な仕事に向いている人、粘り強くやるのが向いている人、人と人をつなげるのが得意な性格、大所高所から見る人、責任ある業務は最小限にしたいと思う人…このような様々な人々の混成社会においてこの業務は将来無くなるので1年後に別の会社で能力を発揮するためにスキルを身に着けてください、と言われもそれは無理難題というものでしょう。

AIはやっぱり仕事を奪うのか、という質問に私はYESの確率が高まってきたと思っています。AIは誰にとって有利なものか、といえば経営者なのです。では一般従業員はどうなのでしょうか?多くの方は自分の作業が楽になったと思っています。「以前は3時間かかった業務が30分で終わるぞ」と。しかし、それは最終的にあなたの業務の必要性が減ってきているとも言えるのです。単純に1/6の時間で達成できるなら部内の職員も1/6で済むのです。

かつて大企業の経理部には10人とか20人とかいて手書きの伝票の処理で四苦八苦したものです。今や電子化が進み、数人いればよく、その数人も経理処理をするというより、処理された数字を分析したり別の形で表現したりする「経理加工業」をしているだけです。私は7社の経理を見ていますが、うち4社は私が直接伝票処理をします。起票数だけで年間千行を優に超える会社が3つあるのに何の苦も無く全部こなせるのはテクノロジーのおかげであり、とりもなおさず、人材が必要ないのです。これは経営者にとってはありがたいですが、一般従業員のハードルがより高まったとも言えます。

カナダに来るワーキングホリディの若者。昔は英語が多少下手でも雇ってくれたところはあります。しかし、今やローカルの人も仕事の選択肢が少なく、「大学は出たけれど…」という問題が現実に起きているのです。中国の話ではありません。アメリカやカナダ、たぶん欧州も未経験者には尋常ではないぐらい職が不足しているのです。するとワーホリの若者は未経験の上に英語が十分ではないのでありつける職は皿洗いになるのです。日本で立派な仕事をしてきた方々に面接の際「あなた、カナダに皿洗いに来たのですか?皿は英語を喋らないですよ」ということもしばしばです。スキルがなければ世の中で活躍できるチャンスは本当に狭まってきています。

多くの若者はテクノロジー分野に将来性を感じ、プログラマー、IT、AIの分野を目指したと思いますが、そのエントリーレベルであるウェブデザイナーでは仕事にありつけません。AIとの親和性の良いプログラマーやウェブといったところから職が奪われているのは皮肉としか言いようがない時代に突入したと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年6月2日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。