「あと2か月」小泉農水大臣はコメ価格を下げられるか

「8月中に、コメの小売価格を下げなければ」

小泉農水大臣が焦っている。新米が店頭に並ぶ9月まであと2か月。それまでに、備蓄米を流通させ小売価格を下げなければ、今後も高値が続いてしまう。だが、状況は芳しくない。

9月を待たず、高額な買取価格(=概算金 後述する)を農家に提示し始めた農協。8月末までの備蓄米完売期限を「延ばしてほしい」と嘆願する小売事業者。

このままではコメは高止まりだ。はたして、小泉大臣はコメ価格を下げられるだろうか。コメ価格の決定プロセスを整理し、予測してみよう。

CHARTGRAPHIC/iStock

コメの4つの価格

コメには4つの価格がある。

農家に農協が支払う「概算金」、農協(など集荷業者)に卸売業者が支払う「相対取引価格」、卸売業者に小売業者が支払う「卸売価格」、そして小売業者に私たち消費者が支払う「小売価格」である。

コメの小売価格に、最も影響するのは「概算金」だ。

概算金は、農家の商品売価であるにもかかわらず、額を決めるのは農協である。農協は、この概算金に、保管費・運送費・手数料などを上乗せし、「相対取引価格」を決め、卸売業者に提示する。そして、この「相対取引価格」をベースに、卸売価格・小売価格が決まっていく。つまり「概算金」がコメ小売価格決定の主要因なのだ。では、この概算金は、どのようにして決まるのか?

「『現状のコメの小売価格』がいくらか」

である(概算金はコメの小売価格から決める。コメの小売価格は概算金で決まる。「ニワトリが先かタマゴが先か」の矛盾を内包する不透明な価格決定プロセスと言える)。

よって、現状の小売価格さえ下がれば、「概算金」の額も下がり、相対取引価格・卸売価格も下がり、将来の小売価格も下がる。農協が、新米の概算額を提示するのは8月末頃。小泉大臣が、(安価な)備蓄米を卸したスーパー等に「8月末までに完売すること」を条件づけたのは、このためだ。だが、その思惑は外れつつある。

外れた思惑

農協が、従来8月末頃までに行っていた新米の「概算金」提示を大幅に前倒ししているからだ。

JA全農にいがた(農協新潟県本部)は、25年産コシヒカリの概算金を「3月」に提示している。価格は5kgあたり「1,917円」(※)。昨年に比べ500円ほど高い額だ。これをきっかけに、新米獲得競争が始まっている。

※以降、米価格は5kg単位とする

この概算金に対し、一部の民間集荷業者が、農家に提示した買取価格は「2,500~2,700円」。これを受け、JA全農にいがたは、3月に掲示したばかりの概算額1,917円をさらに引き上げ「2,167円」としている。JA全農にいがたの町田孝米穀部長は以下のように説明する。

「店頭価格が高額になりすぎないよう総合的に考えて判断した」

新潟のJA、コメ買い取り価格を5割引き上げ 争奪戦が激化|日本経済新聞

皮肉なことに、これら一連の動きは、民間集荷業者の買取価格をさらに引き上げ、新米価格の高騰を招く可能性が高い。

また、小売業者は8月末の販売期限に難色を示し始めている。

「期限を延ばしてほしい」「時間が足りない」「ギリギリ間に合うかどうか」

イトーヨーカドー、ファミリーマート、ローソンなど随意契約した事業者の訴えに、小泉大臣は「検討する」と応じたと言う。

迷走する施策

加えて、農林水産省は、備蓄米の随意契約の対象を、外食や中食(弁当など)を扱う事業者にまで拡大してしまった。すでに、ワタミやコンビニ大手が申請しており、宅配弁当やおにぎりに活用すると言う。

だが、農協が「概算金」決定の指標とするのは、あくまで「コメの小売価格」だ。コンビニのおにぎりや、ワタミの配食の価格ではない。中食・外食にコメの小売価格を下落させる効果はないのだ。

時期を逸した備蓄米販売は、店頭で入手できたラッキーな消費者の家計を助けるだけ。的外れな備蓄米の使途拡大は、随意契約可能な大手企業の利益を増大させるだけだ。

備蓄米は「放出すること」が目的ではなく、コメの「小売価格を下げること」が目的であることを忘れてはならない。

新米は高止まり

これらの状況から、今年の新米も高値が続くと思われる。

コメ騒動前は「1,000~1,300円」で推移していた概算金は、「2,200円弱」にまで高騰している(新潟産コシヒカリ)。この概算金から計算すると、今年の新潟産コシヒカリの小売価格は「4,300円~4,700円程度」(※1 推測値)。新潟はコメ生産量全国1位であり、他の農協の概算金に大きく影響する。残念ながら、コメの価格は高値が続いてしまうのではないだろうか。

山積する課題

農協の価格影響力が強すぎること。価格決定プロセスが不透明であること。コメ市場には解決すべき課題が山積している。そもそも「日本のコメ作りはどうあるべきか」ということさえ明確になっていない。今回のコメ騒動を契機に、将来を見据えたコメ作りのビジョンを構築していただきたい。

農林水産省ウェブサイトより

【注釈】
※1 推測値
農林水産省公表の相対取引価格・集荷業者流通コスト・小売価格より算出

【参考】