米6月雇用統計は市場予想超え、7月利下げ期待は消滅

米6月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は、市場予想を上回りました。失業率は労働参加率が低下したことを一因に4カ月ぶりの低水準に。ただし、就業率は2022年1月以来の低水準のままです。平均時給は前月比と前年同月比を下回り、全体的に労働市場の堅調さを示しながら、鈍化の影も見え隠れしていました。

CNNは「米6月雇用統計に隠されたバッドニュース」と題し、①長期失業者の割合上昇、②失業期間の長期化、③週当たり労働時間の短縮――など数多く指摘しています。ただ、項目別でみると、ポジティブがやや優勢でした(後述)。

米6月雇用統計の結果を受け、FF先物市場で7月の利下げ織り込み度は前日の25.8%→4.7%へ落ち込みました。9月の利下げ確率(0.5%+0.25%)も前日の96%→69.1%へ低下。年内3回利下げ予想も、2回へ巻き戻されています。

チャート:FF先物市場での年内利下げ織り込み度は、3回→2回に

(出所:Fedwatch)

ドル円はNFPが市場予想を上回ったため、発表直後に急伸し一時145.24円まで本日高値を更新。145円手前の高値圏でその日を終えました。年内3回利下げ期待が巻き戻されたため、米債は売り優勢(利回りは上昇)だった一方、米株は堅調な労働市場を好感して上昇して引け。下院でトランプ政権肝煎りの国防費引き上げ・大型減税法案の「ひとつの大きく美しい法案」が可決したことも、材料視されました。

5分足チャート:ドル円は買いで反応、米中閣僚協議への期待も後押し

(出所:TradingView)

今回の雇用統計のポイントは以下の通りで、ポジティブな結果がやや優勢となりました。

(労働市場にポジティブ)

・NFPが市場予想を上回る
・NFP、過去2カ月分は上方修正
・民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)、前年比の伸びが堅調
・失業率が4カ月ぶり低水準
・失業者のうち失職者とレイオフは減少
・不完全雇用率が改善
・フルタイムと複数の職を持つ者が増加
・自発的離職者数が増加、転職しやすい環境を示唆

(労働市場にネガティブ/ニュートラル)

・平均時給の伸び、市場予想を下回る
・週当たり労働時間は短縮
・労働参加率が低下
・完全解雇者の労働力人口の割合が2021年11月以来の高水準近く(労働力人口の減少に伴う)
・就業率は60%割れ、2022年1月以来の低水準を維持
・長期失業者の割合が上昇

以下は、今回の雇用統計の詳細。

〇非農業部門就労者数

米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比14.7万人増となり、市場予想の11万人増を上回った。前月は13.9万人増→14.4万人増と上方修正され、過去分を含め好結果となった。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比7.4万人増と市場予想の10.5万人増を下回った。前月の13.7万人増(14.0万人増から下方修正)を下回り、24年11月からの増加トレンドで最小の伸びとなる。民間サービス業は6.8万人増と、前月の14.1万人増(14.5万人増から下方修正)に届かず、8カ月ぶりの低い伸びだった。

チャート:NFPと失業率

(出所:Street Insights)

チャート:民間就労者数は24年11月からの増加トレンドで最小の伸び

(出所:Street Insights)

4月の1.1万人の上方修正(14.7万人増→15.8万人増)と合わせ、過去2カ月分で1.6万人の下方修正となったこれで、2023年以降では、29回のうち9回目の上方修正(20回は上方修正)となった。

チャート:NFPと修正幅(グレー枠は2023年以降の修正幅)

(出所:Street Insights)

サービス部門のセクター別動向は11業種中で8業種で増加し、前月の速報値ベースと一致した

今回最も雇用が増加した業種は政府で前月比7.3万人増と、24年3月以来の強い伸びだった。連邦政府の減少を州・地方政府が完全に相殺した。しかし、カリフォルニアやニューヨーク、テキサスなど州・地方政府の多くは6月に年度末を迎えるため、季節調整要因でかさ上げされた印象。あるいは、政府効率化省(DOGE)による人員削減を受け、州・地方政府へ転職した可能性を示唆する。

2位は前月まで19カ月連続でトップだった教育・健康で、続いて娯楽・宿泊が入った。一方で、専門サービスは2カ月連続で減少したほか、その他サービスや卸売が減少した。その他サービスの雇用減は、米Q1実質GDP成長率・確報値の個人消費で、娯楽が20年Q2以来の落ち込みを見せた結果と整合的だ。

(サービスの主な内訳)

(出所:Street Insights)

チャート:政府、州・地方政府の増加が連邦政府の減少を完全に打ち消し

(出所:Street Insights)

財生産業は前月比0.6万人増、4カ月ぶりに減少した前月から増加に転じた。業種別をみると、建設が同1.5万人増と5月連続で増加したが、製造業は関税の影響か同0.7万人減と2カ月連続で減少した。鉱業・伐採も0.2万人減と2カ月連続で落ち込んだ。

(出所:Street Insights)

チャート:業種別、雇用の増減

(出所:Street Insights)

〇平均時給

平均時給は前月比0.2%上昇の36.30ド ル(約5,260円)と市場予想の0.3%と前月の0.4%を下回った。とはいえ、2021年2月以降の上昇トレンドを維持。前年同月比は3.7%と市場予想と前月の3.8%(3.9%から下方修正)を下回った。生産部門・非管理職の前年同月比も3.9%と前月(4.0%から下方修正)と変わらず、3月と同じく21年5月以来の4%割れを迎えていた。

チャート:全米と生産労働者・非管理職の平均時給は伸び鈍化

(出所:Street Insights)

〇週当たり労働時間

週当たりの平均労働時間は34.2時間と、市場予想と前月の34.3時間を下回った。財部門(製造業、鉱業、建設)は39.8時間と、前月と変わらず。コロナ禍で最長となった2022年2月の40.3時間以下を保ったままだ。全体の労働者の約7割を占める民間サービスは33.1時間と、前月の33.2時間を下回り、2020年3月以来の低水準だった1月の水準に並んだ2006年以降で最長を記録した2021年5月の33.9時間以下のトレンドを保つ。

チャート:週当たり平均労働時間、伸び悩み傾向続く

(出所:Street Insights)

〇総労働投入時間、民間の総賃金

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間の就労者数の伸びと週当たり労働時間が前月を下回ったため、前月比0.2%減と4カ月ぶりにマイナスだった。

民間部門の総賃金(雇用者数×週平均労働時間×時給)は、賃金の伸びが鈍化したため前月比横ばいと、増加基調を10カ月で止めた。前年同月比は4.5%増と9カ月ぶりの低い伸び。3カ月平均は4.9%増と、3カ月ぶりに5%を割り込んだ。

チャート:民間部門の総賃金、前月比と前年比ともに鈍化

(出所:Street Insights)

〇失業率、労働参加率、就業率、不完全就業率、長期失業者

失業率は前月まで3カ月連続で4.2%を経て4.1%、市場予想の4.3%に反し改善した労働参加率が62.3%と22年12月以来の水準へ低下したことを一因に、失業率を押し下げた。また、家計調査での就業者が同9.3万人増だった一方で、失業者数が同22.2万人減と失業率の低下につながった。

自発的離職者数は前月比12.1万人増の82.5万人と、2021年1月以来の低水準だった前月分の減少幅をほぼ打ち消した。55歳以上で労働参加率が低下しており、株高を受け引退者が増加したとみられる。自発的離職者数に占める失業者の割合は2021年5月以来の10%割れを迎えた前月の9.8%→11.8%へ戻した。

チャート:自発的離職者数、3カ月ぶりに増加

(出所:Street Insights)

失職者数(一時的な解雇ではなく再編やM&Aなど会社都合での解雇者、派遣など契約が終了した労働者)は、前月比15.0万人減の243.3万人と5カ月ぶりに250万人を割り込んだ

失職者数の割合は6カ月ぶりの水準へ上昇した前月の36.0%→34.9%へ低下も、失業者のシェアで1位を維持した。失職者のうち、完全解雇者が労働人口に占める割合は前月の1.11%と、2021年11月以来の高水準を維持した前月の1.12%と概ね変わらず。レイオフ(一時解雇)は86.0万人と3カ月ぶりに減少した。ただし、他と比較して小幅だったため、失業者に占めるレイオフの割合は前月の12.2%→12.3%へ上昇した。

再参入者は前月比14.3万人減の214.5万人と、2021年8月以来の高水準だった前月から減少。新規参入者も同1.5万人減の71.0万人と、2017年4月以来の水準へ増加した前月を下回った。結果、それぞれのシェアは再参入者が前月の31.9%→30.8%へ低下した一方で、新規参入者が前月の10.1%→10.2%へ上昇した。

チャート:失業者の割合は失職者が引き続きトップ

(出所:Street Insights)

チャート:失職者は5カ月ぶりに250万人割れ

(出所:Street Insights)

チャート:労働人口に占める完全解雇者の割合、2021年11月以来の高水準近くを維持

(出所:Street Insights)

チャート:レイオフは前月比で3カ月ぶりに減少

(出所:Street Insights)

労働参加率は前述したようにと前月の62.4%→62.3%と2カ月連続低下した結果、22年12月以来の水準に落ち込んだ20年2月(63.4%)以来の高水準を回復した2023年11月の62.8%以下が続く。

就業率は前月に続き59.7%と、2022年1月以来の低水準を維持した。

チャート:労働参加率は低下、失業率は低水準を維持

(出所:Street Insights)

経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者などを含む不完全雇用率は、前月の7.8%→7.7%へ低下した2月は2021年10月以来の高水準となる8.0%をつけていた。

チャート:不完全雇用率、小幅に低下

(出所:Street Insights)

失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の中央値は前週の9.5週から10.1週と概ね4月の水準へ戻した。また、27週以上にわたる失業者の割合は前月の20.4%→23.3%2022年2月以来の水準近くへ上昇した。

チャート:長期失業者が全失業者に占める割合は上昇

(出所:Street Insights)

〇病気が理由で働けないとする人々

「病気が理由で働けない」とする人々は、前月比ほぼ横ばいの93.4万人へ減少。コロナ前平均の2015‐19年の平均値の93万人にほぼ並んだ。

チャート:「病気が理由で働けない」とする人々は2015-19年の平均値にほぼ並ぶ

(出所:Street Insights)

〇家計調査の就労者内訳

今回、事業所調査(給与台帳ベース、NFPや平均時給、週当たり労働時間など、CES)と家計調査(聞き取り調査ベース、失業率や労働参加率など、CPS)の就業者数の数字を比較すると、家計調査の就業者数は前月比9.3万人増と前月の減少から改善、NFPの14.7万人増と同じく増加した。

チャート:NFPと家計調査の就業者数、NFPと同じく増加

(出所:Street Insights)

家計調査の就業者数を雇用形態別でみると、フルタイムが前月比43.7万人増、複数の職を持つ者も同28.2万人増とプラスに転じた。パートタイムは逆に同36.7万人減とマイナスに反転した。

チャート:フルタイムと複数の職を持つ者は増加、パートタイムは減少

(出所:Street Insights)

チャート:複数の職を持つ者は3カ月ぶりに増加

(出所:Street Insights)

NFPと家計調査の就業者数の動向の、どちらを信用すべきか悩むところだろう。米労働統計局によれば、NFPを含むCES(他に平均時給、週当たり労働時間が含まれる)は、他指標とコロナ禍を経て同様に回答率が低下してきた。

直近のデータをみると、以下の通り。

・CES(事業所調査、NFPや平均時給など)→3月に42.6%、20年2月は59%
・CPS(家計調査、失業率や労働参加率など)→4月に68.1%、20年2月は82.3%
・雇用動態調査(JOLTS、求人件数など)→3月に35.2%と、20年2月は56.4%

CPSは対面と電話での聞き取り調査となるなか他と比較して高いとはいえ、それぞれ低迷したままだ。こうした違いを踏まえれば、CESの結果よりCPSの方が信頼性が高いように見える、しかし、CESの調査対象は12万2,000以上の会社や政府機関である一方で、CPSは2025年1月から6万世帯→5.5万世帯へ削減した。従って、通常は雇用の伸びについてはNFPを扱うCESを重視する傾向が強い。

チャート:雇用関連の調査回答率は低迷

(出所:Street Insights)

パウエルFRB議長 Federal Reserve Xより


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2025年7月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。