「国益をかけた戦いだ。なめられてたまるか。たとえ同盟国であっても正々堂々言わなければならない。守るべきものは守る」。石破首相の街頭演説の発言の一コマです。威勢はよいのですが個人的には早急なる打開策を打ち出した方がよろしいかと思います。

石破茂首相 自民党HPより
本日発表された最新の各国向け関税率をみると主にアジア諸国を中心に20か国の中では25%の日本はフィリピンの20%に次いで「もっとも税率の低い国」の1つとなっており、アメリカの上手な策略を見て取ることができます。つまり、韓国と並び日本にはアメリカはベストディールを与えているという印象を持たせ、「これ以上何を望むのか?」と見せつけているのです。おまけに日本と韓国に競わせる土壌を作ったのです。ベッセント財務長官は万博にしらっとやって来るそうですが、これは関税問題は足元が非常にしっかりしており、日本とは「DONE DEAL」だという意味合いを感じています。
いまさら「なめられてたまるか?」といっても日本はずっとなめられ続けてきたのです。個人的には自動車の関税の交渉余地は相当厳しいと思います。せいぜいクォータ制で〇台までは何%という英国と同じような優遇率を取り付けるぐらいが関の山だと思います。
ところで昨日、トランプ氏は銅に50%の関税をかけると述べ、ラトニック商務長官は実施時期を7月下旬から8月初めと述べています。これは各国向け関税以上に衝撃的です。何を思ってこの関税を思いついたのか私にはさっぱり理解ができないのです。なぜならアメリカの銅の自給率は5割程度。銅はDr.コッパ―とも言われ、経済を占うと言われるほどあらゆる産業で使われる素材です。私は銅鉱山会社の投資を20年ぐらいやっていますが、銅鉱山の開発はたやすくなく、環境問題や先住民問題を抱えるため、アメリカ供給量を直ちに増やすことは不可能。また精錬能力も設備も足りません。
これは何を意味するか、といえばアメリカ企業は50%の関税を払ってでも輸入せざるを得ないのです。とすればこの関税が本当に適用されればアメリカ政府が企業活動をする前に吸い上げる「事前税」であり、実際に事業後には「事後税」として法人税を課すという二重課税のようなもの。さらに高い物品を購入させられる企業や個人消費者はアメリカ政府に消費税の様な間接的税負担をさせられており、個人所得税と共に高い税負担を強いられる構図になっています。(個人的にはトランプ氏の朝令暮改があるような気がしています。銅市場も疑心暗鬼でロンドンとNYの銅相場の差は50%の半分、25%程度しかないということはこの関税が施行される確率が5割しかないと市場は読んでいるともいえます。)
これらは全て増え続けるアメリカの財政赤字の穴埋めのためであり、先日のブログでもちらっと申し上げた税の三極、国と企業と個人の関係を再構築するということです。では、この重課税国に他国企業が本当に投資をしたいのか、といえば個人的には疑問視しています。今は過渡期なので対策を練らねばと焦る一部の企業がアメリカへの投資を打ち出していますが、「本当に売れるの?」と冷静に考えると一歩立ち止まりたくなるところでしょう。
もう1つ読み切れないのはトランプ氏は残り3年半しかないこと。その後を誰が引き継ぐかは現時点では全く読めませんが、トランプ氏ほど胆力がある人は現れることはなさそうです。とすればむしろ世界は次の人を「別の意味で待望」しているわけで次期大統領にかかるプレッシャーは相当なものになり、民主党政権になるようものなら「大オセロ返し」すら起こりえるわけです。
学者ならこう読むのでしょうか?「国政が180度ころころ変わる国は信用度が低い。現在の国債の信用レーティングも先行きネガティブ、アメリカ中心の世界経済もリスクヘッジを進めて地球規模の多極化体制に移すべきであろう」と。
石破首相の話に戻すと、恨んでもいいのですが、交渉の成果がない以上、私なら「二倍返し」するしかないと思っています。関税問題で直接ガチンコ勝負をすると瞬間湯沸かし器のトランプ氏の頭から湯気が立ちのぼるのでアメリカに「やられた―」とぎゃふんと言わせるぐらいの策を考えてもらいたいのです。例えばアメリカのGAFAMクラスの企業の本社を税の特別待遇で日本に持ってくるとか。要は誰も考えないような「うそでしょ!」というアイディアを出してみたら、ということです。
ところでサンドバック状態のパウエルFRB議長。氏の予想は関税がアメリカの物価高を招く、よって今の金利水準を下げるのは時期尚早というのですが、消費は物価高について行けないとみています。よって腰折れのような景気後退、及び企業倒産が起きる可能性があります。特に不動産関係が厳しさを増しており、建設物価上昇で消費者の手が届かなくなる新築物件に対して地域により2-3割下がってきている中古物件との差が大きくなる典型的な需要減退が起きている可能性があります。よって個人的にはFRBは金利は下げざるを得ないところに早晩追い込まれるとみています。
恨み節の話でしたが本当に恨み節なのはアメリカ国民ではないか、という気がしてなりません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月10日の記事より転載させていただきました。






