日本の医療の実態を誤解させる動画投稿は倫理に反する

谷本 真由美

今回の参院選で維新の会公認であるおときた駿候補が「社会保険料を下げる改革」と題した動画をXで投稿し大炎上しております。

おときた駿候補は特定団体を批判する内容であって医療業界全体を批判しているわけではないとその後投稿されていますが、このような動画を見た有権者はまるで医療業界が高い医療費や医療関係者の報酬を維持するために不正を働いているような印象を受けるでしょう。

おときた候補の投稿した動画のひとコマ

確かに日本の社会保障費は高いわけですが、これは日本は超高齢化社会であり、社会保障費の多くが医療だけではなく高齢者対策に使われていることが背景にあります。

これは高齢化している他の先進国でも全く同じであります。高齢化はどの先進国でも大問題です。

そして現実問題として真面目に診療を行っている日本の医療機関の少なからずは赤字状態です。

医療関係者の報酬も決して高くありません。大学病院も私立病院も、大半の医師の報酬は欧州の公務員の医師より安く、労働条件は過酷です。アメリカに比べると報酬は更に安くなります。看護師や他のスタッフも同様です。

報酬が安すぎるので、言語や資格を緩和したとしても途上国から日本に働きに来る医師や看護師はいないでしょう。

日本の医療関係者は激務で、欧州に比べても賃上げ交渉などをするわけでもなく、欧州であれば拒否する業務をやってくれたり、資源が少ない中で大変な努力をして治療や看護、検査をやってくれているという事実を日本の有権者は理解するべきです。

これは実際に他の先進国で医療機関にかかったことがある人であればよく理解していることです。

私はアメリカ、イタリア、イギリス、中国で実際に医療機関を受診しており、家族は入院や手術経験もあります。出産はイギリスです。

アメリカとイギリスの場合は医療機関はコスト構造に大変シビアですから、医師や看護師はシフトが終わればスパと帰ってしまいますし、引き継ぎもずさんなことが少なくありません。

イギリスとイタリアの場合は基本的に医療は国立病院で行われ、国民健康保険を払っているのであれば治療や入院は無料ではありますが、しかし医療従事者の労働時間を厳密に管理するために患者は十分な治療を受けられないことが当たり前です。

検査器具も足りず人員が不足しているために簡単な検査でも3ヶ月から4ヶ月待つことが当たり前です。イギリスのMRIやCTスキャンの数はロシアやメキシコ並みです。

日本はMRIやCTスキャンの数は世界トップクラスです。機械がたくさんあるので検査が迅速に受けられます。

イギリスの場合は検査の予約日時を選ぶことすらできません。

イギリスでは医療従事者やスタッフの都合で検査や治療がキャンセルになることもよくあります。比較的重い病気での手術でさえキャンセルになってしまい次の手術がいつになるかわからないということがあります。私の知人の中には手術を待っている間に亡くなった方がいます。日本なら助かっています。

日本は病院や医療従事者がかなり努力をしてくれているので、こういうことはありませんが。

日本の医療機関というのはかなりギリギリの状態で大変少ない予算で業務を回してくれているので欧州のように患者が不利益を被ることが非常に少ないのです。

アメリカの場合は医療は民間の医療保険で行いますので、大企業や軍隊に勤めている人は職場が負担する保険がありますが、そうではなく自営業の場合などは大変高価な医療保険を支払わなければなりません。

その費用は1ヶ月に例えば15万円ほどになることがあります。医療保険はここ20年で凄まじく高騰しているので、負担できない人は子供を諦めるということも事実です。

しかしそれでも日本のようにどこの医療機関でも同じような治療が受けられるというわけではなく、健康保険の種類や支払額によって受けられる治療は違いますし受診できる病院も限られてきます。

このような現実を無視して単に社会保障費を削るべきだと繰り返す維新の会の主張には私は疑問を抱いています。

日々努力してくれている日本の医療関係者を貶めるような動画を投稿するのは現実を捻じ曲げ、現場の士気の低下を招き、そもそも人間としての倫理に反します。


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