サプライズだった関税合意:アメリカやトランプ氏を喜ばせる方法を考えた日本政府

私のような一般国民が何でも知っているわけではないのでこのようなニュースに「初めからこうなると思っていたさ」など大言壮語は言いません。政府は思った以上に交渉カードを取り揃えていたようです。

報道のトーンがばらけており、若干の誤認もあるかもしれないのでここでいったん整理しておきます。私が読み取った限りでの内容です。

①ジャパン インベストメント アメリカ イニシアティブと銘打って5500億ドル(80兆円)をアメリカに投資
②アメ車輸入に関して安全基準を満足している限りにおいて認証手続きの簡素化プロセスへの移行
③ミニマムアクセス米の輸入枠内で米国産コメの輸入比率拡大
④ボーイングの航空機100機購入
⑤アラスカLNG共同開発

最大のポイントは①の投資枠設定です。これはベッセント財務長官がテレビインタビューで「これが決め手」と述べているので間違いないでしょうし、インパクトの規模がほかの4つとは比べ物になりません。またベッセント氏は日本が提示した案は「革新的な資金供給スキーム」と述べているとおり、米国の産業全般、半導体からレアアースまでを対象とし、その資金供給スキームは出資、融資、融資保証としています。

詳細は判明しませんが、アメリカにある日系銀行による実弾資金融資、ないし、日系政府系企業による出資を政府保証するような形になるのではないかと思います。ふと思うのは具体的にどんなビークルを使うのかなと思うのですが、政府系銀行を介するのだと思いますが、これだけの規模になると孫正義氏を通じたAI関係とか日系自動車関連、あとは鉱業ならJOGMECを絡ませるといったところなのでしょうか?

アメ車の件についてはどうでもよいです。これはリップサービスに近いものでほとんどインパクトはないと思います。日本の方が最近のアメ車を見て「欲しい!」と思う車種があるなら聞いてみたいものです。最近の自動車のデザインは直線的で力強さを打ち出すものが増えてきています。テスラのサイバートラックはその典型で、ブリキのおもちゃみたいなダサさの塊ですが、キャデラックや売れ線の韓国車も割と直線的デザインでボクシーでインパクトがあります。好き嫌いなのだと思いますが、あまり日本ウケしないように感じます。

コメですが、一部の農業関係者が激おこのようですが、それは十分理解していないと思います。要は77万トンのコメは輸入せざるを得ないのです。だけど日本が食用として輸入しているのは13%程度の10万トン程度でした。つまり残りは飼料であります。アメリカからのコメを増やすというのが食用なのか飼料なのか、判明しません。私の考えは備蓄米をアメリカ産のコメにすればよいと考えています。備蓄米は5年で飼料にしていたと記憶していますので通常の年なら備蓄米の20%ずつが餌になっていったわけです。コストが高い一方品質が良い日本のコメをそういう使い方をするのはあまりにももったいないわけで今回備蓄米が空になったのだからアメリカ産米をそこに投入すればウィンウィンでしょう。

結局、今回の関税交渉で見たのは双方にとってメリットあるディールは何か、ということでした。言い換えればトランプ氏が「関税を課すぞ」と言いそれに対して「報復関税だ」とやってしまうと泥沼にはまり、抜け出せなくなるのですが、日本政府は関税が高い安いという直接交渉よりもアメリカやトランプ氏を喜ばせる方法は何か、と考えたのだと思います。

交渉を終えたばかりの赤沢大臣 同大臣Xより

いうまでもなくそのヒントはAI投資をめぐり、孫正義氏とトランプ氏との熱い握手を交わしたことがあったはずで、あのあと、孫氏は政府高官とそのあたりのいきさつを説明しています。その時点でトランプ氏が喜ぶプレゼントはマネーであるが、そのマネーを投資やその支援という金融手法に切り替えたことが功を奏したのでしょう。

もちろん、一部野党からはもの凄い突き上げがあるかもしれません。「アメリカに80兆円?何それ、そのくせ、減税はできないのか?」と。今回の話はある日突然、アメリカに80兆円を差し上げるわけではありません。特に多くは信用供与だと思いますので実弾すら出ないと思います。ただ、日本はアメリカと一心同体であるということを改めて示したとも言えます。

ではお前はこれをどう評価するか、と言われればそんな大それたことを言える立場にはありませんが、私なりの総括をすれば最後の最後によくまとめ上げ、新興国より低い関税率を得たことは素直に評価すべきと思います。批判をすればいくらでもできるのですが、これができたのは自民党故にできたことである、という自負は持つべきでしょう。

一方、石破首相の件はまた日を改めて書きますが、花道になると思います。石破氏にとって特に思い入れがあるとされる8月の重要イベントを終えて、たすきを渡すことになりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年7月24日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。