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「子宮頸がんワクチンは安全である」とワクチン推進派は主張しています。この根拠は、現在までに発表されている論文において、「ワクチン接種群と未接種群の有害事象の発生率を比較した場合、有意差はない」ということです。
ただし、このことを「ワクチンと有害事象とには関連性(あるいは因果関係)がない」と解釈することは科学的に正しくありません。「有意差が認められるほど有害事象の発生率は高くない(発生率ゼロの場合もある)」と考えるのが、正しい解釈です。
「有意差が認められるほど有害事象の発生率は高くない」場合において、別の原理の統計手法である偶発性分析を用いて関連性を調べることが、今回の私の論文の目的です。
子宮頸がんワクチンの安全性を調査するために、日本では名古屋サーベイというアンケート調査が2015年に実施されました。この調査データを基にして2つの論文が発表されました。一つ目は、鈴木貞夫氏による論文で、ワクチンと重篤な有害事象との関連性はないとされました。二つ目は、八重ゆかり氏による論文で、関連性の可能性があると報告されました。
同じデータセットを用いて、異なる結論となったため、論文著者は互いに論文(論文1、論文2)で問題点を指摘し、論争となっています。更に第三者の研究者も論文の問題点を指摘しています。
今回、私はこの名古屋サーベイのデータセットを用いた第三の論文を発表しました。過去に発表された2編の論文は、接種群と未接種群とを比較して分析するという論文であるのに対して、私の論文では、接種群のデータのみを用いて、有害事象が偶発的に発生したかどうかを分析するという手法を用いました。
このアンケート調査では、小学6年生より調査時点までの期間における有害事象の発生の有無とその発生日、ワクチン接種日などのデータを収集しています。私の分析では、有害事象の発生日と接種日の間隔を調べ、集計してグラフを作成しました。

「めまいがする」という有害事象のグラフです。横軸が接種日から有害事象の発生までの月数で、縦軸が事例数です。有害事象の発生日が接種日の前の場合は、マイナスの数値となります。
グラフより、プラスの数値の事例がマイナスの数値の事例より多いことが分かります。もし、有害事象が偶発的に発生しているのであれば、両者の事例数は、ほぼ同じになるはずです。したがって、プラスの数値の事例が多いことは、ワクチンが有害事象の発生に影響を与えていることを示唆しています。

「物覚えが悪くなった」という有害事象のグラフです。プラスの数値の事例が多いという不均一な分布となっています。ワクチンが有害事象の発生に影響を与えていることを示唆しています。
ここで問題となるのは、報告バイアスなどのバイアスにより、グラフが不均一な分布を呈した可能性です。

「足が冷たい」という有害事象のグラフです。このグラフで重要な点は、接種後0~2月を除くと、プラスの数値の事例数とマイナスの数値の事例数とほぼ同じであり、均一に分布しているという点です。これは接種後0~2月の期間以外では、有害事象が偶発的に発生していることを示唆しています。

「月経不順」という有害事象のグラフです。接種後0~2月を除くと、均一に分布しています。
これらの2つのグラフの均一な分布は、今回使用したデータセットには、報告バイアスがほとんど存在していないことを示唆しています。これは偶発性分析においては重要な点です。何故ならば、報告バイアスのあるデータセットは偶発性分析では使用できないためです。
報告バイアスがほとんど存在していないことが確認できたため、「めまいがする」、「物覚えが悪くなった」などのグラフの不均一な分布が報告バイアスによるものではなく、ワクチンが有害事象の発生に影響を与えた結果、不均一な分布になったと解釈できるわけです。
名古屋サーベイで調査された24の有害事象のうち6~22の事象において有意差が認められました (年齢階層分析やP値補正の有無により有意差ありの事象数は異なる)。有意差が認められた事象は、「関節やからだが痛む 」、「集中できない」、「視力が急に低下した」、「めまいがする」、「物覚えが悪くなった」、「簡単な計算ができなくなった」、「普通に歩けなくなった」、「手や足に力が入らない」などです。
なお、今回の結果をもって、ただちに子宮頸がんワクチンを中止するべきと主張するつもりは全くありません。論文にもそのことは明記してあります。中止するべきかどうかの判断は、重篤な副反応の発生率とワクチンの有効性(子宮頸がんの発生をどの程度抑えることができるか)とを鑑み、包括的になされるべきものです。
今回の結論は、子宮頸がんワクチンの副反応で苦しんでいる人の救済認定のエビデンスとして役立てるべきと、私は考えます。
【補足1】
論文では、疾患ではなく重篤な症状に重点をおいた分析をすることの重要性を指摘しています。これは、副反応は従来の診断分類体系では容易に捉えられない可能性があるためです。このことは、他の研究者も指摘しています。
【補足2】
論文では言及しませんでしたが、有害事象は接種3か月~2年後にも発生している可能性をグラフは示唆しています。接種後何日までを救済の対象とするべきかは、重要な論点です。






