トランプ大統領「ロシアはペーパータイガーだ」

トランプ米大統領は23日、自身のプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」の中で、対ウクライナ政策の転換を発表している。トランプ氏は「ウクライナは西側同盟国の支援があれば、ロシアの侵略者から領土を奪還できる。ロシアは弱体だ。時間と忍耐、そして特にNATOからの財政支援があれば、戦争開始時の国境線を奪還できる」と主張している。数週間前まではロシアとの交渉ではウクライナの領土割譲について言及していたトランプ氏が今、ウクライナの領土全土を奪い返すと主張しているのだ。「パウロの回心」を思い出させるトランプ氏の大転換(パラダイムシフト)だ。

トランプ大統領と会談するゼレンスキー大統領 ウクライナ大統領府公式サイトから 2025年9月23日 ニューヨークの国連で

先ず、米アラスカ州のアンカレジのエルメンドルフ・リチャードソン米軍基地で8月15日に開催されたトランプ米大統領とロシアのプーチン大統領の米ロ首脳会談を思い出してほしい。会議は約3時間行われたが、会議は終始、プーチン氏のテンポで行われ、トランプ氏はウクライナの問題ではモスクワから何の譲歩も勝ち取ることが出来ずに終わった。

一方、国際社会から孤立していたプーチン氏は米国の地で赤絨毯を敷かれて迎えられたことで、世界に向かってロシアの存在をアピールすることができた。プーチン氏はその後、ウクライナ東部・南部のドネツク、ルハンスク、へルソン,サボリーシャの4州を完全占領する軍事攻勢を継続してきた。トランプ氏からは会談後、プーチン大統領と撮った記念写真をメディア関係者に自慢げに見せるだけで、ウクライナ戦争の張本人プーチン氏の戦争犯罪への批判は一つも飛び出さなかった。

そのトランプ大統領がここにきて「モスクワは牙のない虎(ペーパータイガー)に過ぎない」と呼び、ウクライナのゼレンスキー大統領には、「ロシアが奪った領土を全部取り返すことが出来る」と言い出したのだ。

トランプ大統領は「ロシアは3年半にわたり、真の軍事大国であれば1週間もかからずに勝利できたであろう戦争を繰り広げてきた。これはロシアにとって名誉ではない。むしろ、この国を『牙のない虎』のように見せている」と説明し、「ロシアの資金の大部分は、ウクライナとの戦闘に費やされている。ロシアは深刻な経済危機に陥っている。今こそウクライナが行動を起こす時だ」とウクライナ側に発破をかけているのだ。

ちなみに、トランプ氏は23日、ニューヨークで開催された国連総会の傍らでゼレンスキー大統領と会談した際、NATO諸国は領空侵犯したロシア機を撃墜すべきかという記者の質問に対し、「イエス、撃ち落とすべきだ」と答えているのだ。最近、ロシア戦闘機や無人機がポーランド、ルーマニア、エストニアなど、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の領空を侵犯したばかりだ。

大統領の急激な対ロシアのポリシーチェンジに対して、ルビオ米国務長官は「大統領は忍耐の人だが、その忍耐も無制限ではない」と説明したうえで、「ロシアがウクライナ和平プロセスを先延ばしにしている。大統領は外交的突破を期待していたが、停滞をもたらしただけでなく、状況はエスカレートし危険水域に入ってきている」と述べ、トランプ氏の対ロシア政策が大きく変わったことを認めた。ちなみに、ルビオ国務長官はロシアが侵略を続けるならば、モスクワに対し経済制裁を実施し、米国はウクライナへの武器供与を継続すると強調した。

トランプ氏と会談したゼレンスキー氏は「トランプ大統領と会談し、最終的に平和を実現する方法について話し合った。トランプ大統領は状況を明確に理解しており、この戦争のあらゆる側面について十分な情報を持っている。戦争の終結に貢献するというトランプ氏の決意に深く感謝する」と、Xで書き込んでいる。

なお、欧州連合(EU)のカラス外務・安全保障政策上級代表は「トランプ大統領の見解は非常に明確であり、このような内容はこれまで聞いたことがない。欧州と米国の両者が共通の見解を持つようになったことは非常に喜ばしい」と歓迎している。

以上、トランプ氏の対ウクライナ政策の転換をまとめた。西側メディアでは「トランプ氏の方針転換は恒久的なものか、それとも一時的な思い付きに過ぎないのか、まだ最終的には結論できない」といった慎重な受け取り方が見受けられる。ロシア側からはトランプ氏の政策転換への反応はまだ流れてこない。プーチン氏もトランプ氏の真意がつかめず苦悩しているのかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。