平均給与は過去最高の478万円でも実質賃金は低迷

国税庁が公表した2024年分民間給与実態統計調査によると、平均給与は過去最高の478万円に達し、4年連続で増加した。しかし、この数字の見かけの伸びに対して、物価上昇が実質賃金を侵食しており、国民生活の改善は限定的だ。インフレ下での減税やバラマキは、かえって物価を押し上げ、実質賃金を下げる恐れがある。

  • 平均給与の上昇
    2024年の民間企業の平均給与は前年比3.9%増の478万円となり、統計開始以来最高額。伸び率も1991年以来の高さ。男女別では男性586万円(3.2%増)、女性333万円(5.5%増)。正社員は545万円、非正社員は206万円で格差が2.6倍。
  • 業種別格差
    業種別では「電気・ガス・熱供給・水道」832万円が最高、次いで「金融・保険」702万円、「情報通信」660万円。一方「宿泊・飲食サービス」は279万円にとどまり、業種間格差が大きい。
  • 税・手取りの現実
    源泉徴収された所得税は11兆円余りで、定額減税の影響から前年より減少。手取りは額面の約8割とされ、平均給与478万円でも実際の可処分所得は約380万円にとどまる。税・社会保険料で100万円前後が差し引かれる。
  • 実質賃金の伸び悩み
    物価上昇が3.9%の名目賃上げを上回るため、実質賃金の伸びは小さい。食料品など生活必需品の値上げが家計を圧迫し、消費者は統計以上に物価高を感じている。
  • 政策への警鐘
    インフレ下で減税や給付を行えば需要を刺激し、物価がさらに上昇して実質賃金が低下する。日本の労働生産性はG7最下位で、雇用の流動性の低さや中小企業の過保護も停滞の要因。生産性向上なしに減税やバラマキを繰り返しても成長せず、生活は苦しくなる。

平均給与が過去最高を更新しても、物価上昇が実質賃金を削り、国民生活は豊かになっていない。インフレ下での減税やバラマキは「好循環」を生むどころか、インフレを悪化させて手取りを減らす。日本経済が必要とするのは生産性の抜本的向上であり、短期的な減税策や分配策だけでは生活向上も持続的成長も実現しない。

mapo/iStock