【自民党総裁選】リーダー人事評価②「林芳正」

西村 健

ステマ騒動で揺れる自民党総裁選挙。筆者は長年、政策評価や人事評価の専門家として「政治家の人事評価」などを提起してきたが、首相としての「リーダー人事評価」を考えていきたい。

第2回目は、林芳正さん。

1961年1月19日、山口県生まれ。父義郎さんが大蔵大臣。祖父の佳介さんも衆議院議員、佳介さんの祖父(高祖父)の平四郎さんも衆議院議員・貴族院議員。さらに、お母様は宇部興産社長の娘で、おじさんたちにも山口放送社長、山口合同ガス社長がいて、おばさんの結婚した広瀬家はテレビ朝日会長の道貞さん、富士紡績の貞雄さん、経産省事務次官で大分県知事の勝貞さんという親族の数々。「華麗なる一族」出身といってもいいだろう。

下関市立文関小学校、下関市立日新中学校、県立下関西高校を卒業。1984年、東京大学法学部卒業。三井物産株式会社に入社し、その後、ハーバード大学ケネディ行政大学院修了、親族企業でもあるサンデン交通、山口合同ガスを経て父親の林義郎さんの政策担当秘書になった。参議院議員選挙で初当選。その後、2021年に参院から衆院にくら替え。防衛大臣、内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)、農林水産大臣、文部科学大臣、外務大臣、官房長官を歴任。政界のまさにエリートである。

この方は自民党総裁、いや日本の首相としてどうなのか? その気品と才能で独自のハーモニーで交響曲を奏で、世界のリーダーとも対話強調、優雅にかつ知的に交渉できる新時代のリーダーになれる可能性を持っている。

世間での「評価」と「偏見」

「仁」の政治を掲げた林さん。宏池会のプリンス? 「ギインズ」のボーカル? 政界の119番? 困った時のヨシマサ? 中国には融和姿勢? 高級官僚より有能? など、身近な方から見ると様々な評価がある。

こうした様々な評価を持つ林さん。政界で「実務力」と「安定感」に対して高い評価を受けている。豊富な実務経験を持っていて、調整能力、情報収集にたけているようだ。それだけの能力を発揮できるコミュニケーション力を持ち、落ち着いていて、しっかりした答弁など、地味だが安定感にあふれる。「冷静に話し合いたい」という誠実な言動の数々、仁義という価値感を大切にするのだろう。

特徴的な発言として、「状況次第で判断する」「柔軟に考える」「臨機応変に対応していく」、さらに官房長官として失敗や批判を受けた際にも「自分の責任を回避しない」「責任を否定するつもりはない」との姿勢や役割を明確にしたうえでの、出過ぎた発言もない。政権幹部としては119と呼ばれるくらい力量を評価されるのも納得である。

「リーダー人事評価」

筆者は人事評価の専門家として各階層の求められる能力と行動特性を研究している。以下が基本的にはリーダーシップの評価の評価軸である。

筆者作成

総理大臣の采配は他のマネジメントとは形態が変わってくるので、これをもとに、昨年、以下のような評価視点を提示し、各候補を評価した(あくまで筆者による自己評価なのでご注意ください!)。

筆者作成

今回、さらに「リーダーのコンピテンシー」を掘り下げよう。このコンピテンシーの中でも本当の意味で日本の首相に必要なのは、「部下を的確に指示命令ができる」こと、「信頼を持たれる言動・行動ができる」こと、「場面に応じて、的確な判断ができる」ことであり、そのことの重要度が高い。この3つをさらに分解・ブレークダウンすると・・・

①「部下に的確に指示命令ができるためには

  •  幹部や部下の能力やスキルや強みを理解している
  •  目標達成のためのイメージ、命令の意義や意味を部下に納得行くように伝えることができる

②「信頼を持たれる言動・行動ができる」ためには

  •  自分が絶対に正しいと思っていなく、自分を客観視できる
  •  周りへの配慮や優しさや愛情がある
  •  自分が誤った場合には(周囲に)素直に言える、謝罪できる
  •  部下が「この人のためなら」と思えるだけの人間性や人柄を持っている
  •  言動と行動が一致している
  •  物事に動じず、泰然自若している、厳しい時に逆に周りを鼓舞する

③「場面に応じて、的確な判断ができる」ためには

  • 状況を正しく、偏りなく、大事なポイントを理解できる
  • 官僚や周囲が出してくる内容に対して一貫性のある判断基準を持っている
  • 多くの立場・視点から総合的に客観的にみることができる
  • 物事が進まないときにも、できる限り冷静にいて、問題解決策を探れる

さらにこれらの「条件」をさらに深い根底の階層にブレークダウンすると、

④ 基盤レベルとして

  • 首相として何を成し遂げるのかの思い、使命、情熱がある
  • 有力な利害関係者や一部の関係者のためではなく、全体的かつ歴史的視点を踏まえて行動すべきだと考えている
  • 主権者である国民への寄り添え、奉仕する意欲を持つ

といったところになる。

こうした「リーダー人事評価」をしてみると、林さんはかなり合理的な思考と行動ができるリーダーだということがわかるだろう。知的能力が非常に高い。

推察すると

  • 物事に動じず、泰然自若している、厳しい時に逆に周りを鼓舞する
  • 首相として何を成し遂げるのかの思い、使命、情熱がある
  • 有力な利害関係者や一部の関係者のためではなく、全体的かつ歴史的視点を踏まえて行動すべきだと考えている
  • 主権者である国民への寄り添え、奉仕する意欲を持つ

と言った点が課題だろう。多彩な能力は評価されている。育ちが良いので品があり、性格も高い評価をされている。

ただ、首相になって日本をどう作り上げていきたいのか? 価値観にもとづくビジョンを多様な視点と経験をもとに将来の「日本」を構想しているようには思えない。仁と調整の必要性を訴えた「和を以て貴しと為す」でもいいだろう。また、困った人、恵まれていない人に寄り添うことで、さらに人を導く凄いリーダーに成長できるかもしれない。

林さんへの期待

リーダーとは、合理的な行動をとれるかはもちろんあるが、本質は「修羅場で人を率いられるか」と筆者の師匠が定義していた。時には自分の枠を飛び出し、どこまで苦しみ悩んだ経験があるのか。

本当の修羅場をくぐった経験があるのかわからないが、人を勇気づけ導けるのだろうか。特に、何か自分や周囲の身に問題が起きたときに、冷静に対処し、融和的に、相手の立場にたって行動することができるのだろうか。

世間的には「順風満帆」のキャリアといえる。経営者の息子、政治家の息子、ファミリー企業のサポート、そして学歴・職歴・実務能力など、正真正銘のエリートである。

とはいえ、我々が知らないであろう苦労も数多くしているだろうし、色々と葛藤や悩みもあっただろう。経済的かつ能力的にも恵まれていた立場だからこそ、歴史的な視座からの日本の在り方を提起できるはずだ。

「ノブレス・オブリージュ(貴族は社会の模範となるようにふるまう、義務を負うという考え方)」を体現できる能力も経験もある。林さんに期待したい。

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