高市新総理はトランプ大統領に「JAUKUS」を提起せよ

4日午後、自民党新総裁に高市早苗氏が選出された。15日開催で調整中の臨時国会で我が国初の女性総理に選出されることに疑いはない。新総理の初外交は10月27日に来日するトランプ米大統領との首脳会談だ。トランプ氏も「シンゾー」の衣鉢を継ぐ高市氏との顔合わせを楽しみにしているはずだ。

筆者は、その会談で必ず話題に上るはずの「日米関税交渉」と「日本の防衛費負担増」に絡めて、かつて麻生氏が提唱した「JAUKUS」を、高市新総理がトランプ氏に改めて提案することをお勧めしたい。

トランプは関税政策にも「常識」を働かせよ
「常識」について小林秀雄がこう書いている(新潮社版『小林秀雄全集』第九巻「私の人生観」195頁)。 実際、自由主義と言い、民主主義と言い、どうやら風の吹きまわしで、はやっているに過ぎない様に思われる。(中略)常識は、何事によらず、行過ぎと...

なぜなら「JAUKUS」は、「軍事」と「経済」の両方の安全保障面で、トランプ氏が常套の「Deal」を用いて日本に求めてくる諸課題を解決する可能性を秘めているからだ。筆者が拙稿「トランプ関税:この90日間に日本が採るべき政策」で核ミサイル付原潜の購入に言及したのも、こうした理由による。

トランプ関税:この90日間に日本が採るべき政策
トランプ政権は、貿易相手国に対し5日に発動した一律10%の相互関税に加えて、9日に実施予定だった国毎に異なる税率の追加につき、90日間の交渉期間を設け、一時停止した。制裁中のロシア・イラン・北朝鮮には一律課税を実施せず、また報復関税...

この発想が決して荒唐無稽とはいえない出来事が先月末にあった。これまで豪州への原潜売却に消極的だったトランプ政権が、「AUKUSに基づき」「3〜5隻を提供する計画を予定通り進める方針を29日までに固めた」というのである(9月30日の『日経』記事)。

この記事を読んで筆者は、21年9月25日の拙稿「仏vs米豪の潜水艦騒動:原潜保有国は全て核兵器保有国」を思い出した。豪州が、フランスに発注済の通常型潜水艦をキャンセルしてまで、9月16日のAUKUS発足に合わせて、米国への原潜発注に切り替えたことに言及した記事である。

仏vs米豪の潜水艦騒動:原潜保有国は全て核兵器保有国
米英豪3国は16日、軍事関連の自動化や人工知能、量子技術などの共有を目的とする「AUKUS」の結成を公表した。豪州はその機にフランスからの潜水艦導入契約を破棄し、米国から原潜を導入する旨を表明した。これにフランスは激怒して米豪両国の大使を召...

怒ったマクロン氏も発足祝賀会をキャンセルした。が、それも当然で、仏原潜をわざわざ通常型に改造する契約だったのだから、原潜が欲しいならそのまま売ることができた。筆者はこの騒動で、豪に提供する米原潜は核ミサイル付だと確信し、拙稿の表題に「原潜保有国は全て核兵器保有国」と付した。

トランプ大統領と高市早苗自民党新総裁

現在の原潜保有国である米・英・露・中・仏は、いずれも国連安保理の常任理事国だ。核兵器の保有国はこの5ヵ国以外にインド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮とされるが、これらに原潜はない。北朝鮮が開発中とされるが、駆逐艦の進水式さえトラブったのだから未だ時間が掛かるだろう。

https://www.jfss.gr.jp/article/2174

21年6月と7月に米国紙『ワシントンポスト』と『NYT』が、中国甘粛省と新疆ウイグルにある核ミサイルのサイロについて報じた。が、恐らくこれはお互い様で、陸上にある各国の核ミサイルサイロの場所は各々須らく特定しているだろう。そしてそれらは、一朝緩急あれば即座に攻撃に晒される。

中国核軍拡に背を向け核軍縮に向う? バイデンの米国
中国人民日報傘下の環球時報(GT)は14日、米国の元国防長官や核軍縮専門家らが日本の政党に、米国が「核先制不使用」の立場を公表しても反対しないことを求める公開書簡を送ったとの、9日の京都新聞記事の紹介で書き出された中国軍事専門家の寄稿を掲載...

原潜の優位性は、真にその秘匿性というか、隠密行動性というか、にある。ロシアはオホーツク海辺りに、米国は西海岸沖辺りに、それぞれ原潜を遊弋させているとされる。が、補給や乗員交替時の外はずっと潜航していられる原潜の所在を掴むのは、それこそ至難の業だ。

豪州に供与されるとバージニア級原潜には、1隻につき複数の核弾頭を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル「トライデント」を最大20基搭載できる。トライデントの射程は最大7400kmだから、対中国は勿論のこと対ロシアでも、南太平洋やインド洋から攻撃が可能だ(8月3日の『CNN』)。

トランプ氏が豪州への原潜売却を渋った理由の一つは、米国の造船能力不足、即ち米国ファーストに反するからだ。が、AUKUSがバイデン政権の発案だったことも、負けず嫌いのトランプ氏にはお気に召さなかったのだろう。さては漸く、原潜あってこそのAUKUSが、中国の抑えに有効だと気付いたか。

「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は紛れもなく「シンゾー」の遺産である。彼の盟友である麻生副総理(当時)が、FOIP強化策の一環としてJAUKUSを提起したのは、23年11月にキャンベラで開かれた「オーストラリア国際問題研究所」主催の会合だった。

高市新総裁には、最終的に自分を推してくれた麻生氏に報いる意味でも、彼のJAUKUS構想を実現させる責務があろう。が、例によって日本の原潜保有に抵抗する勢力がある。例えば9月28日、「有識者が提言する原潜導入 布石への懸念」と題する社説を掲載した『朝日』だ。

防衛省が設置した「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」が9月19日に、原潜導入を念頭に置いた報告書をまとめたことを懸念しているのだが、筆者はその理由に思わず吹き出した。「専守防衛の枠に収まるのかも疑問だ」というのもそうだが、何より報告書が「『長距離・長期間の移動や潜航』を可能にすることが望ましく・・」とているのを難じていることにである。

これには既視感がある。昭和の頃から議論になっていた「空中給油機」の導入に、当時の社会党が猛反対していたのだが、その理由が「周辺国の基地まで攻撃する事が可能となり、他国、とりわけアジア近隣諸国に侵略的、攻撃的な脅威を与える」というのだ。

つまり「遠くまで飛べる」からダメ、という訳だが、そこには「有識者会議」のいう「長距離・長時間」の「長時間」の概念が欠如している。燃料補給のために何度も離着陸することのロスを全く考えないのである。今日では勿論、20年に導入された空中給油機が22年から本格運用されている。

関税交渉で日本は、80兆円の対米投資は約束されるは、自動車関税は2.5%から15%にされるはで、エライことになっている。失敗理由の一つは、石破氏が採った関税交渉に防衛問題を絡めないとの愚策にあると思う。米国が日本に売りたいものの中で、日本が最も必要とするのは兵器であるのは自明だ。

トランプ関税に係る三案件に一言
4月初め世界各国に向けて唐突に発せられたトランプ関税、その交渉が最終盤を迎えている。残るは中国だけかと思われたが、既に合意したはずの日本とインドについて俄かに齟齬が生じている。本稿ではこれに関連する三つの案件について筆者なりの考えを述べてみ...

トランプ氏は他国の安全保障に、米国の金も兵士も使いたくないのだ。現在の戦争の帰趨は、ドローンと核ミサイル付原潜、そしてサイバーが握っているといって過言でない。日本が原潜保有国(=核ミサイル保有国)になれば、今ある米軍基地は全て引き揚げてもらっても構わないのではなかろうか。

高市新総理には、麻生氏の支援宜しきを得て、トランプ氏に「JAUKUS」-即ち、核ミサイル付原潜の供与-を提案して欲しい。必然的に憲法改正を伴うが、それこそ「日本の真の独立」を目指した祖父の安保改正を平和安全法制で上書きした「シンゾー」がやり残した、高市氏に相応しい政治テーマである。