8050障害者難民を生む障害者グループホーム総量規制は止めよ

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障害者の「終の住処」を奪う愚策

2025年10月14日のニッセイ基礎研究所のメールマガジン・投稿記事で、「グループホーム総量規制が検討されている」との一報があった。障害者も高齢化し、その親は超高齢化しつつある。「障害者8050問題」が静かに進行している今、この政策は衝撃的であり、きわめてナンセンスである。

この規制は、営利企業によるグループホームやホスピス型有料老人ホームなどで相次ぐ不正・不適切・劣悪なサービスを問題視した結果のようだ。しかし、親の死後に障害者が安心して暮らせる「終の住処」であるグループホームを不足させ、彼らの行き場を失わせかねない総量規制は断じて避けるべきだ。必要なのは規制ではなく、適格事業者の認定制度の整備や人員配置基準の強化・監視体制の充実である。

障害者8050問題とは何か

「8050問題」とは、いわゆる引きこもり状態の「子供部屋おじさん・おばさん」が自立せず、親の高齢化や死去により生活困難に陥る社会問題である。障害者の場合は自立能力を欠くケースが多く、事態はより切実である。

令和7年版『障害者白書』によると、身体障害者は423万人、知的障害者は126.8万人、精神障害者は603万人に上る。このうち施設入所者は、身体障害者1.7%、精神障害者4.4%、知的障害者10.1%にすぎない。

在宅者の年齢構成を見ると、身体障害者では65歳以上が約7割を占める一方、知的障害者では14.6%、精神障害者では約3割である。身体障害者の多くは介護保険の枠内で対応可能だが、問題は知的・精神障害者のケア体制である。

現場から見える実情

筆者は1990年代から訪問看護に携わってきたが、重度障害者・児の多くは母親がケアしており、母子家庭も少なくない。かつては重い先天性障害を持つ人は短命で、30歳を迎えられないケースが多かった。だが医療の進歩により、現在では60歳を超えて生きる人も増えている(いわゆる「キャリーオーバー」)。

しかし、自立生活が難しい以上、誰かがケアを担わねばならない。親が高齢化し、やがて要介護化・死亡したとき、残された障害児・者を誰が支えるのか。答えは明白で、公的サービスによる入所支援しかない。

グループホームは「最後の砦」

筆者の居住地である相模原市には、悲惨な事件の舞台となった「やまゆり園」がある。こうした大規模入所施設は、立地や人材確保の難しさに加え、近年は「地域生活」重視の流れもあり、新設はほとんど望めない。その代わりとなるべき「終の住処」が、グループホームである。

親や家族と同居できなくなった障害者が増える一方で、グループホームの数が足りなければ、「障害者難民」いやホームレス障害者が生まれてしまう。

総量規制で入所の門を狭めることは、親の死後に障害者を「野垂れ死にせよ」と言うに等しい。

筆者は最近、知的・精神障害者グループホームに関するコンサルティング業務にも関わり、この問題の深刻さを実感している。これは、待ったなしの政策課題である。

子どもの頃、筆者の近所には同い年の重度知的障害者の友人がいた。幼少期は一緒に遊んだが、学年が上がるにつれて特別支援学級に通い、中学以降は別の進路になった。それでも地域の人々は彼に温かい声をかけ続けていた。やがて彼は施設に入所し、今も高齢の親御さんは安心していることだろう。

結びに

知的障害や精神障害は、本人に責任のない宿命である。国や社会が彼らを「難民」にして苦しめるような政策をとることは、絶対にあってはならない。

いま求められているのは、「規制」ではなく、「支える仕組み」である。

【参考】

グループホームに総量規制?
障害者の状況 令和7年版 障害者白書