自民党の高市早苗総裁が首相に指名され、憲政史上初の女性首相が誕生しました。内閣の構成をみて印象深かったのは、初の女性首相の誕生のほか、任命された閣僚が卒業した大学の偏差値は高く、しかも米国の一流大学卒の留学経験者も多いことです。
高市内閣の閣僚は首相以下21人です。新閣僚のリストを眺めていてすぐ気が付いたのは、東大卒が7人もおり、歴代内閣では最多か、かなり多いほうではないかと思います。大学の偏差値だけをみると、高学歴内閣です。
やはり高い偏差値の早大3人、慶大2人、京大1人が閣僚になっています。さらに驚いたのは、「米国の一流大卒」が4閣僚の学歴欄に書かれていることです。ハーバード大院卒と表記されたのは林芳正総務相と茂木俊充外相で、2人とも東大卒後に留学しています。
他にも小泉進次郎防衛相がコロンビア大院卒(関東学院大卒)、黄川田仁志こども政策相はメリーランド大院卒(理科大卒)と表記しています。英語が国際化時代にとって必須の条件ですから、政治家としての武器になりますし、自己宣伝につながります。日本の最終学歴を書くより、欧米の大学経験を書くことが彼らにとって、有利になるのでしょう。
留学先の米国のトランプ政権が留学生の制限に向けて走りだし、ハーバードなどの一流大学への補助金カットなどを強硬に進めています。そんなことをしないで、海外から留学生を迎え入れ、米国の理解者を増やすべきなのに、残念だなあとも思いました。

高市政権の顔ぶれ 首相官邸HPより
自己宣伝になる海外留学
本題に戻りますと、公職選挙法には、候補者の学歴を記載する義務はないようです。ただ「虚偽の経歴を表記した場合は「虚偽事項公表罪」に問われます。ですから、最終学歴をハーバード大院卒と書くかどうかは本人の意思次第で、政治家にとって自己宣伝になると判断しているのでしょう。
日本の英語教育では、海外で通用するような教育はしていません。英語圏に留学して、外国で通用する英語をしゃべる政治家が増えていくのはいいことです。野党もそうした人材を育成する必要があります。
次に19人の閣僚のうち東大卒が7人もいる「高偏差値内閣」について考えてみましょう。「高偏差値教育」には功罪があると思います。
斎藤ジン氏の『世界秩序が変わる時/新自由主義からのゲームチェンジ』(文春新書)は昨年12月に出版され、新書としては驚異的なベストセラーになっています。今年の8月時点で16刷、その後もっと増えているでしょう。
米ワシントンの投資コンサルタント会社の共同経営者です。莫大な資金を動かすヘッジファンドに各国の経済分析情報を提供する仕事で、ジョージ・ソロスも顧客に持ち円安投機で大きな成功を収めさせたことでも有名です。トランスジェンダーであるを隠さない人物でもあります。
トランプ政権のベッセント財務長官もトランスジェンダーです。斎藤氏は「トランスジェンダーは日本では活動しにくい。米国は多様性を重んじる国で、トランスジェンダーでも仕事がしやすい。だから、米国に留学し、米国で働くような選択をした」と、書いています。
さらに「政策当局に多様な人材がいれば、よりクリエイティブな発想ができる。日本は私のいる業界(金融投資で膨大な稼ぎを目指すヘッジファンド業界)とは真逆で、画一的な偏差値競争に勝ち残った東大法学部での男性ばかりですから、(1997年の金融危機後の対応で、終身雇用制度を捨てて、企業を身軽にして成長戦略を考えるようなことは)難しかったのかもしれません」、「日本の政財官の指導者たちは新しい成長モデルを打ち出すことができませんでした」と、主張しています。同感です。
アベノミクスに区切りを
高市首相は積極財政論者で、安倍政権の後継者の流れです。アベノミクスは膨大な財政赤字、日銀による巨額な国債保有、円安、市場機能の喪失という負の遺産を残しました。アベノミクスを肯定する学者、識者は今や少数派でしょう。「責任ある積極財政政策」で経済成長を目指すようです。財政政策で経済成長をもたらすことはできないことをアベノミクスは示しました。
アベノミクスからの転換こそ進めるべきなのに、安倍政権の復活が高市政権を誕生させる原動力となったことを懸念しています。アベノミクスの失敗から高市氏は学んでいないようです。
斎藤氏がいう「新しい成長モデル」とは金融財政政策に依存しない考え方のはずです。高市政権はアベノミクスの亡霊を断ち切ることがまず必要です。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2025年10月22日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。







