台湾最大野党に反独立色の濃い女性主席が誕生

僅か1年足らずの石破総理総裁の下、自公連立与党は衆参両院ともに過半数を割り込んだ上、高市自民党新総裁が誕生した途端、公明党も26年間の連立与党を離れた。が、21日の臨時国会の首班指名投票では、維新との連立合意を前日に電撃成立させた高市総裁が、我国憲政史上初の女性総理に就任した。但し、翌日の世論調査で71%の高支持率を得たとはいえ、その前途は多難だ。

お隣の台湾国会でも、ここ1年10ヵ月余り行政府と立法議会に捻じれが生じていて、頼清徳総統の舵取りは困難を極めている。昨年1月の立法委員選挙で、全113議席のうち与党民進党の獲得議席が51議席(10議席減)に留まった一方、最大野党国民党が52議席(14議席増)、第二野党民衆党が8議席(3議席増)、その他2議席(7議席減)となり、過半数を6議席割り込んだからだ。

高市総裁は維新と連立し、無所属票なども得て何とか政権を引き寄せたが、頼総統率いる民進党はこの7月と8月、国民党議員にリコールを求める住民投票に持ち込む挙に出た。6議席を求めて民進党支持の市民団体が「当該議員は親中派」などとレッテルを貼ったのだが、7月の24名も8月の7名も全員が否決される結果となった。7月はまだしも、8月の7名は如何にも悪あがきと映る。

その台湾で18日に行われた最大野党中国国民党の主席選挙で、辛辣な物言いで知られる女性候補鄭麗文氏(55歳)が新主席に選ばれた。33万余人が投票し、鄭氏が39.46%で1位、2位は郝龍斌前副主席(73歳。国軍参謀総長や李登輝政権の行政院長だった郝柏村の子)が35.85%で2位だった。メディアは、彼女が「樽の輪」、即ち集団指導体制のまとめ役になるだろうと評している。

早々に翌19日、習近平総書記は鄭氏に祝電を送った。これに鄭氏も返信で感謝の意を表し、「92年コンセンサス」と「反台湾独立」を基礎に両党の交流と協力を強化していく考えを示した(21日の政府系『中央社』記事)。

記事によれば、卓栄泰行政院院長(首相)は21日、両岸の「交流」は「中華民国の主権が侵害されないこと、台湾の自由で民主的な生活様式が損なわれないことを前提」にして、他の「候補者を打ち負かしたように気合を入れて習氏との会談に臨んで欲しいと」と述べた。

一方、台湾で対中国政策を担う大陸委員会の邱垂正主任委員は、中国は19年から「92年コンセンサス」「一つの中国原則」「台湾向け一国二制度」を一体化していて、その最終目的は中華民国を消滅させ、台湾を統一に組み込むことにあると指摘、「国民は団結し、主権と尊厳、民主的な生活様式を守らなければならない」と呼び掛けた。

これに対し、19日の反民進党寄りの『聯合報』は、習氏が電報の中で「両党は長年にわたり『92年コンセンサス』を堅持し、台湾独立に反対する」という「共通の政治的基礎」の上に「両岸の交流と協力」を推進してきたとし、「大多数の台湾同胞を団結させ、中華民族としての志・決意・自信を強め」「国家統一を推進する」ことを期待すると述べた、と報じている。ならば鄭麗文氏の返信は、この習氏の呼び掛けに明確に呼応したことになる。

その「92年コンセンサス」に、筆者は19年2月の拙稿「台湾と千島、その法的地位」を含めて6編で触れた。実のところ「一つの中国」に係る「92年コンセンサス」の解釈は三者三様で、中国はそれを「中国は一つで、台湾は中国の一部」と主張し、国民党は「中国は一つで、大陸は中華民国の一部」とするが、民進党は「コンセンサス」の存在自体を認めていないのである。

とすると、鄭麗文氏の返信にある両岸交流の基礎の一つ「反台湾独立」は習氏に歓迎されるとしても、国民党の「92年コンセンサス」の解釈が、蒋介石の「大陸反攻」に由来する「中国は一つで、大陸は中華民国の一部」では、習氏も具合が悪かろう。もし蒋氏が71年に「大陸反攻」の旗を降ろしていたなら、台湾は今も独立が維持できていたと筆者は思う(拙稿「米下院がアルバニア案に関連する法案を可決」)。

その拙稿で筆者はこうも書いた。

大統領選に勝ったドナルド・トランプは蔡英文に電話を架けて互いに祝福し合い、台湾旅行法承認や両国の閣僚級会談などを行う一方、18年から米中貿易戦争を仕掛け、米中関係は悪化した。

トランプ氏によれば、電話は19年11月の大統領選に勝った後、蔡氏から掛かってきたようで、彼も1月の蔡氏の勝利を労ったそうだ。が、例によって中国外交部は直ぐ米政府に「米中関係の大局が不要な妨害を受けることがないよう」、「1つの中国」政策を守り、台湾問題を「慎重に、適切に扱うよう」促したという。

そのトランプ氏は、高市「総裁」の誕生後にも彼女を「Prime minister」と呼んで祝福した。この二人は26日からのASEAN首脳会議(マレーシア)でも、東京での会談を挟んだ31日からのAPEC(韓国)でも顔を合わせる。トランプ氏に同行するベッセント財務長官も高市氏を安倍氏の「後継者」と述べた。

蔡氏の件や「シンゾー」との数々の逸話もそうだが、トランプ氏はフレンドリーな相手を歓迎するし、そうでない相手の話も傾聴する。それは金正恩との会談やネットで反トランプの『CNN』インタビューなどを見れば判る。高市氏は直ぐにでも「お陰様でPrime ministerになれましたよ」とお礼の電話を掛けてみてはどうか。

ついでに26日以降のどこかで「Air Force Oneに同乗させてもらえませんか」とねだってみるのだ。マレーシア⇒東京なら7時間、経済、防衛、中国、台湾など諸々の話題をじっくり話し合える。「昭恵さんと3人で靖国神社に行く」話も忘れずに。