今年の1-9月の訪日外国人数は31,649千人。昨年の同期が26,881千人でしたから17.7%増で推移しています。今年の残り期間も引き続き高い水準が続くと思いますので年間で43,000千人規模ペースで昨年年間の36,870千人を17%前後上回るペースになりそうです。
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留まるところを知らないに外国人観光客ですが、オーバーツーリズムはあらゆるところに影響を及ぼしています。特に頭痛の種が日本人が旅行の制約を受けやすい点です。人気観光地は電車、宿泊の混雑のみならず、諸物価が外国人価格設定となっているところもあり、「えー、こんなに高いの?」ということが顕在化しています。
また日本人はグルメで知られますが、旅慣れた外国人が日本人のユーチューブも参照しながら「うまいものが手軽な金額で食べられる」という情報にどん欲さを示しています。特にユーチューブ効果は大きく、世界各国からの訪日外国人が自国民向けに各国語の食レポを相当数出しており、それこそ、日本人が知らないようなローカル店や路地裏の奥の店をお勧めしてしまうこともあり、収容できる客数が10人、20人程度の店にどっと客が溢れるという現象も起きています。
例えば寿司屋は一般的には3通りあります。大型店に対して2つ目は寿司職人が3-5名ぐらいいるところ(回転寿司は除外しています)、そして3つ目が大将1人が主体となって握る店です。ひとり大将だと物理的にカウンター10数席、テーブル席2つが精いっぱいで、20名捌くのは至難の業とされます。
当然、小規模店はこだわりが強く、常連客が定期的に訪れるケースも多いのですが、ぞの常連がはじかれてしまうのと、外国人客は必ずしもマナーが良いわけではないのです。特に家族連れの場合、親は熱心に食べるも、子供たちはスマホを見ながら口に放り込むという体もあり、食を愉しむ域ではなく、腹を満たすだけのケースも間々見られます。店主も仕事ですから文句を言う人は少ないと思いますが、決していい気分ではないでしょう。
当然、価格上昇も昨今の物価上昇に輪をかけた状態になります。もっと頭が痛いのがホテル。日本の特性は訪日外国人が増える以前から大型イベントがあるとホテルが全く取れない状態になりがちでした。例えば野球やサッカーなど収容人数が多いイベント、大型国際会議、人気エンタテイナーによる地方コンサートは途端に街中の宿泊機能がマヒしてしまうこともあります。
今はそれに拍車をかけるように訪日外国人客が月平均300万人以上訪れるわけです。訪日外国人によるホテル部屋数の需要は2024年度に1億6000万泊です。24年度の総利用宿泊数が6億6000万泊でしたから全体の1/4が観光客にアロケートされているわけです。外国人観光客は年間を通じて比較的安定して来ていますから宿泊業の人には安定的に確保できる部屋数が25%上乗せされていると言ってもよいわけです。もちろん、それは景気アップにつながりますが、一方で物価高にも繋がります。
では物価高対策だと言ってオーバーツーリズムを制限する動きに出たらどうなるでしょうか?
昨今のカナダの経済事情が参照になるかもしれません。カナダは観光客というより、学生や就労、移民目的の人を一時期、爆発的に受け入れていたため、社会のインフラ、例えば中長期で滞在する人たちの居住場所、各種学校、各種社会サービスがオーバーフロー状態になっていました。そこで政策変更をし、24年からガクッとその枠組みを減らしてしまったのです。どうなったか、といえば学校から学生が消え、賃貸業をしている大家は学生が入居しません。移民が増え居住者が増えれば住宅需要があるという見込みで進んでいた数多くの不動産プロジェクトもとん挫しています。
つまり一度、設定した目標はそう簡単に変えられず、多少でもそれが歪むとビジネス界から悲鳴の声が上がるのです。(それまで十分儲けたじゃないかという街の声は聞こえぬふりです。)
東京など大都市の場合、私が知る限り中国人による民泊運営が水面下で相当あるとみています。多く場合、中国人が小規模の賃貸マンションを一棟買いしたり住宅を購入をして、それらを中国人が正規の職人かどうか怪しい中国人を雇い、改装し、中国人による中国人のための民泊を運営しているようです。それら民泊も正規の許可を貰って運営しているとは個人的には思えず、要調査でしょう。
昨今の日本の不動産ブームは外国人が押し上げていることは間違いありません。日本人が日本人向けの需要で不動産がバンバン上がる理由はなく、買い替え需要という枠組みの中で人口減と不動産価格の上昇により潜在買い手が減っていたのです。ところが海外の不動産価格との差異から外国人投資家の目に留まることになったわけで、今のマーケットは外国人サマサマなのであります。
とすれば近年まずまずの経済状況を享受する日本は外国人による景気底上げが否定できず、政府は引き続き外国人に対する高い目標値を持っている限り、今後もオーバーツーリズムは続き、日本人がマーケットからドロップアプトしてしまう事態が想定されると思います。
個人的には政府の目標数字の見直しは細心の注意を払わないとカナダのような失敗をすると思います。むしろ、最近の訪日客は東アジアと東南アジアの伸びが大きいのでそれらの方々をどう経済に結びつけるか、前向きな対応を考えるべきだと思います。上述のように中国人による中国人のためのビジネスはカナダでも横行しています。これはローカル経済への寄与が薄く、これらを改善することが政府のまず第一歩になるのかと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年10月26日の記事より転載させていただきました。