世界が注目したトランプ・習近平の首脳会談@釜山が終わった。結果はまだ両国で公式には確認されていない点が残るが、報道で大体見えてきた。
感想を一言で言えば「中国のミラーアタックが見事にキマった」だ。今年4月トランプが相互関税を発表して以来、中国は「目には目を、歯には歯を」戦術をきっちり実行してきた。
「10月初めに発表したレアアースの輸出許可も『目には目を』なのか?」と疑問に思う方が居るだろう。日本メディアは、この顛末をあまり正確に報じていなかったから、そう感じるのも無理はない。
中国のレアアース規制は、9月末に米国が発表したエンティティリスト規制の拡張措置注)に対する報復として導入されたものだ。この点は本30日付けのBloomberg記事が的確に報じている。(下はAI翻訳)
As the Trump administration put it, the regulation was aimed at “closing the loopholes and ensuring that export controls work as intended.” It would only result in a few hundred additional export license applications annually, per the US government’s official estimate. A Trump official told Bloomberg News at the time that they didn’t anticipate the 50% rule having any major impact on trade flows.
But from Beijing’s perspective, Washington had reneged on a promise made just days prior in Madrid. The 50% rule, according to estimates from WireScreen, would result in more than 20,000 additional Chinese entities facing American trade curbs. For Chinese authorities, that justified the dramatic escalation in rare-earths policy, triggering another global supply-chain panic.
トランプ政権が表明したように、この規制(エンティティリスト強化措置)は「抜け穴を塞ぎ、輸出管理が意図した通りに機能することを確保する」ことを目的としていた。米国政府の公式推計によれば、年間で数百件程度の追加輸出許可申請が生じるに過ぎない。当時トランプ政権高官はブルームバーグ通信に対し、50%ルールが貿易フローに重大な影響を与えるとは予想していないと述べていた。
しかし北京の視点では、ワシントンはわずか数日前にマドリードで交わした約束を反故にしたことになる。WireScreenの試算によれば、50%ルールにより2万社以上の中国企業が追加で米国の貿易規制対象となる見込みだ。中国当局にとって、これが希土類政策の劇的な強化を正当化する根拠となり、世界的なサプライチェーン危機を再び引き起こした。
US Delays 50% Sanctions Rule for China’s Rare-Earth Reprieve (2025-1-30 Bloomberg)
中国企業の間では「トランプ政権内の対中タカ派がトランプに『既存規制のマイナーな補完措置に過ぎない』と説明して(騙して)了承を得た」という噂が流れていると聞いた。
たしかにトランプ自身は釜山での習近平との直接交渉の前に、中国を怒らせるようなことはしないように随分と気を遣っていた気配があったから、この規制強化が強烈なインパクトを持っていると知らされたら了承しなかったかもしれない。
「米国の措置に中国が報復したのだ」という因果関係が見えていなかったために、トランプもベッセント長官も報復を知らされた当初、激しく怒って「100%関税」とか口走ったわけだ。
対中タカ派が「騙した」のか、彼ら自身が「大したことない」と考えていたのかは分からないが、事前のリサーチが不足していたことは間違いない。
こうしてみると、中国側は見事に「目には目を、歯には歯を」の「ミラー・アタック」を打ち返して、それが作戦どおりに運んだのが今回の首脳交渉の結果だということが分かる。よく言われているように、中国は米国を遥かに上回る事前準備、対策研究を重ねてきた結果だとも言える。
今回の結果からもう一つ感じるのは、これが今後1年続く米中マラソン交渉の始まりだということだ。9月のマドリッド閣僚交渉で粗々合意されたトランプの訪中と習近平の訪米が今回改めて確認され、トランプの訪中は4月になった。「1年延期」の項目が多いのは、来秋の習近平訪米を念頭に置いているからだろう。
今後1年に討議の机に上るテーマは広汎だ。中国はエンティティリスト規制拡大の延期どころか、過去6年間にわたって強化拡大されてきた対中経済安保規制全体の緩和・撤廃を目指していると言われる(その代わり、日本を上回る1兆ドル規模の対米投資を約束するという噂も流れている)。台湾の行方も今回「全く議題にならなかった」が、中国は必ず持ち出すだろう。
我々は延期になったレアアース規制の結末だけでなく、今後の米中交渉から目を離すことができない。同時に、進行する事態の全容を掴むには、トランプ政権の発表やそれを受け売りするだけのメディアだけ見ていたのではアカンということを肝に銘ずるべきだ。
トランプ大統領と習国家主席 2025年10月30日 ホワイトハウスXより
編集部より:この記事は現代中国研究家の津上俊哉氏のnote 2025年10月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は津上俊哉氏のnoteをご覧ください。