「ちょっと体調が悪い段階で病院に行けば、結果的に医療費が安くなる」という主張を見かけます。
重症化を防ぐことができれば将来的な医療費を抑えられる――一見もっともらしく聞こえる話です。
しかし、実際のデータを冷静に見ると、この理屈には大きな誤解があります。
外来受診回数は世界トップクラス、でも医療費は下がっていない
OECDの統計によれば、日本人の外来受診回数は年間およそ12〜13回。これは加盟国の平均(約6回)の約2倍です。つまり日本は、「世界で最も病院に行く国」のひとつです。
それにもかかわらず、日本の一人あたり医療費は依然として高水準のまま。医療費を抑えるどころか、むしろ外来回数の多さが医療費増大の一因になっていると指摘されています。
厚労省の分析でも、受診回数が多い地域ほど一人あたり医療費が高くなる傾向が見られています。
「軽症受診=コスト削減」は、強いエビデンスなし
日本医療政策機構(HGPI)の報告書や、厚労省・日医総研などの分析では、
「軽症疾患での受診が多いことが、医療費の増大と勤務医の負担を招いている」との指摘がなされています。
救急外来の現場では、軽症患者の対応に人手が割かれ、本来の急性期医療が圧迫されているケースもあります。
一方で、「軽症の段階で早めに受診すれば、結果的に国全体の医療費を抑えられる」という因果関係を実証的に示した研究は、国内外を通じて見当たりません。
疾患によっては予防・重症化を防ぐという観点で一定の効果があるとしても、“頻回受診=医療費抑制”という科学的根拠はないのです。
結びに
医療は「使えば使うほど良い」ものではありません。過剰受診の構造をそのままにしておいては、勤務医の過労も、医療費の膨張も止まりません。
今こそ「自分でできるケア」と「医療が必要な時」の線引きを、社会全体で見直すときです。
私も引き続き、データに基づいた冷静な議論と制度改革を訴えていきます。
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編集部より:この記事は、前参議院議員・音喜多駿氏のブログ2025年11月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。