医療機関の「赤字議論」を前に進めるために:経営情報の提出義務化について

医療機関の赤字が相次いで報じられ、「医療崩壊ではないか」「本当に赤字なのか」といった議論がSNSでも続いています。

この問題で私が特にクリティカルだと考えているのは、財務省が指摘する「経営情報データベース」の提出項目、とりわけ職員給与・人数情報の提出が任意になっている点です。

財務省はここを「見える化のコア」と呼んでいます。

ところが、この最も重要な情報が任意提出のままでは、医療機関の経営実態はブラックボックスにならざるを得ません。

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医師会・医療関係者が「提出義務化」に強く反対してきた経緯

私の理解では、提出義務化にはこれまで医師会および医療関係団体が強く反対してきたという経緯があります。

反対理由として挙げられるのは主に以下の点です。

  • 事務負担が増える
  • 小規模医療法人だと個人情報が特定されかねない
  • 経営の自由を脅かす懸念がある

特に「小規模法人だと個人が特定されかねない」という懸念は、私自身も一定理解できる部分はあります。

しかし、だからと言って「最重要情報をすべて非公開」にしてしまえば、経営の健全性を評価する仕組み自体が成り立ちません。

医療現場の疲弊は事実。しかし、正確なデータなしでは改革は進められない

もちろん、医療現場が過酷な労働環境に置かれ、疲弊していることは間違いありません。勤務医の働き方改革が議論され、医療機関の人件費が構造的に増加しているのも事実です。

しかし「赤字」「黒字」「過重負担」「適正な人件費」など、議論の土台となる情報が曖昧なままでは、医療側にも国民側にも納得感のある議論は成立しません。

本当に必要な改革は、正確なデータの上にしか築けない。

これは社会保障全般に共通する原則です。

そろそろ「本丸」の議論を避けるのをやめるべきではないか

医療法人の経営情報データベースは、医療の透明性を高めるための重要なインフラです。

ところが、核心部分が任意提出のままであるため、現状では政策判断の根拠として十分に機能しているとは言えませ

医療の世界は公共性が極めて高く、収入の多くは公的保険=皆さんの保険料と税金です。だからこそ、ある程度の透明性や説明責任が求められる側面があります。

事務負担については、デジタル化・標準化で軽減できる部分があるはずです。個人特定については、統計処理や匿名化の手法で対処可能でしょう。

避け続けてきた論点に、そろそろ正面から向き合うべき時期ではないでしょうか。

建設的な議論へ向けて

医療提供体制を持続可能なものにするためには、医療側と国側が互いの立場を理解しつつ、実態に即したデータを共有することが不可欠です。

提出義務化の是非は、医療界にとってデリケートなテーマであることは承知の上で、ブラックボックスを温存したままでは議論が進まないという現実を直視しなければなりません。

私はこの点について、今後も丁寧に議論を深め、現場の声にも耳を傾けながら、制度の改善に向けた問題提起をしていきたいと思います。


編集部より:この記事は、前参議院議員・音喜多駿氏のブログ2025年11月13日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。