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この記事では、GDP分配面のうち家計の営業余剰(持ち家の帰属家賃)の国際比較を共有します。
1. 日本の家計の営業余剰(総)
GDP統計と言われる国民経済計算(SNA: System of National Accounts)で特徴的なのは、家計は持ち家を自分自身に貸す不動産業を営んでいる個人事業主として扱っている点です。
この家計による持ち家の運用所得(帰属家賃)は、営業余剰として集計されていて、GDP分配面の一部を構成しています。
持ち家が増えれば増えるほど、GDPが増え、家計への分配も増えるという関係性です。
分配面においては、家計が個人事業主として得る所得は混合所得として集計されていて、持ち家による所得の営業余剰とは区別されます。

図1 営業余剰・混合所得 家計 日本
国民経済計算より
日本の家計の営業余剰と混合所得を合わせた営業余剰・混合所得を見ると、個人事業主の減少に伴って混合所得は大きく減少していますが、営業余剰は一定範囲で推移しています。
ただし、近年ではやや減少傾向となっています。
人口の減少と共に持ち家の新築件数も減少しており、それに伴って家計の営業余剰も減り始めていると考えれば理解しやすい傾向かもしれませんね。
2. 1人あたりの推移
今回は、この家計の営業余剰(総)について、国際比較をしてみたいと思います。
持ち家のGDPへの寄与分がどの程度かといった見方になり、非常に興味深い統計でもあるのではないでしょうか。
人口1人あたりのドル換算値(為替レート換算)と、対GDP比で計算した結果を共有していきます。
まずは主要先進国の人口1人あたりの推移から眺めてみましょう。

図2 営業余剰(総) 1人あたり 家計
OECD Data Explorerより
1人あたりの推移を見ると、日本(青)は横ばい傾向が続いていますが、2000年代まではイギリスやフランス、イタリアなど他の主要先進国と同程度で推移していたようです。
OECD平均値を大きく上回り、相対的に高い水準でした。
2022年以降は円安が進んだ事もあり、大きく水準が低下して2023年ではOECDの平均値を下回ります。
1人あたりの水準で非常に特徴的なのは、ドイツの水準が低い事です。
ドイツは賃貸住宅の住環境が整備されている一方で、持ち家率が低いと言われますので、その影響が大きいのかもしれませんね。
3. 1人あたりの国際比較
続いて1人あたりの水準について、国際比較をしてみましょう。

図3 営業余剰(総) 対GDP比 家計 2023年
OECD Data Explorerより
2023年の国際比較をしてみると、日本(青)は2,315ドルでOECD29か国中14位と中程度の立ち位置となります。
他の指標では20位台など下位になる事が多いのですが、住宅投資による所得(持ち家の帰属家賃)は先進国中程度となります。
アメリカ、イギリス、フランス、イタリアなど上位には主要先進国が多く含まれるのも特徴的ですね。
ただし、ドイツは1,839ドルとやや低い水準です。
帰属家賃の高さ=価格という側面と、持ち家率=数量がミックスされた指標である事に注意が必要です。
4. 対GDP比の推移
続いて、GDPの内訳比率となる対GDP比の推移です。

図4 営業余剰(総) 対GDP比 家計
OECD Data Explorerより
対GDP比の推移を見ると、日本(青)は概ね絵メリカやフランスと同程度で推移していて、主要先進国の中では標準的な水準だったことがわかります。
ただし、2010年以降は低下傾向が目立ち、2023年にはアメリカを下回っています。
イタリアがやや高い水準なのも印象的です。
ドイツは非常に低い水準で、OECDの平均値を下回って推移しているのも特徴的ですね。
住宅事情で言えば、ドイツは主要先進国の中でやや特殊な状況のようです。
5. 対GDP比の国際比較
最後に対GDP比の国際比較をしてみましょう。

図5 営業余剰(総) 対GDP比 家計 2023年
OECD Data Explorerより
2023年の対GDP比の国際比較を見てみると、日本(青)は6.8%でOEC29か国中10位、G7中5位と先進国の中でもやや大きい水準のようです。
GDPのうち6.8%は家計の持ち家の帰属家賃が寄与しているという事になりますね。
イタリアやフランス、イギリスは9%を超え更に高い水準ですが、ドイツは3.4%と非常に低いのが印象的です。
下位にはデンマーク、ノルウェー、スウェーデンなど北欧諸国が多く含まれます。
6. 家計の営業余剰(総)の特徴
今回は、家計の持ち家の帰属家賃を集計した営業余剰(総)についてご紹介しました。
日本は1人あたりGDPではOECDの中で20位台と下位になりますが、家計の営業余剰(総)では10位と相対的に高い水準です。
それだけ家計の持ち家のGDPに対する寄与率が高い事になります。
一方で、ドイツは持ち家率が低い事もあり、主要先進国としては極端に低い水準なのが印象的ですね。
持ち家がGDPにも大きな影響を与えているというのは意外と思う方も多いのではないでしょうか。
もちろん、持ち家だけがGDPに寄与しているかと言えばそうではありませんね。賃貸であれば、家計でなく不動産事業者の付加価値として集計されているはずです。
持ち家率が高ければ、それだけ賃貸物件のGDPへの寄与率が下がるはずですね。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2025年11月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。






