高市政権が21日、21兆円規模の総合経済対策を決めました。インフレ時の財政膨張策・政策金利据え置きはインフレの促進になるというのが経済学的な定説です。「燃えさかる火に水をかけるのではなく、薪をくべるに等しい」という酷評も聞かれます。
結論を先に申し上げますと、高市首相は物価抑制ではなく、物価高促進を目指しているのだと思います。「物価高を目指す」とさすがに宣言できないでしょう。本音では、ステルス(隠密)インフレ、ステルス増税(ステルス・インフレ税)をやろうとしていると、私は考えます。インフレ率は2%ではなく、3%以上の定着を望んでいるのでしょう。
物価が上がれば、GDP(国内総生産)が拡大し、消費税、法人税も増え、GDP比で2.5倍の国家債務残高を減らす。政策金利は据え置き、名目経済成長率より低い金利にとどめておく。表向きは「責任ある積極財政」でも、「ステルス・インフレ、ステルス増税(増収)」が本音でしょう。

高市首相 首相官邸HPより
市場のトリプル安を懸念する
それを市場がどう判断するかです。すでにトリプル安(円安、債券安、株安)が起きています。特に円安(日本売り)が懸念され、1㌦=160円を超えるようだと、日本経済の存立危機事態の懸念が生じます。
10月の消費者物価は前年比3.0%、食料品は7.2%(生鮮食品を除く)で、国民生活を苦しめています。高市財政が財政悪化をもたらすとの市場は懸念し、1㌦=157円程度まで円安が進んでいます。円安で輸入物価が上がり、高いインフレ率が続くでしょう。
「新政権はインフレを抑え強い経済を」(日経社説)、「これで物価高を克服できるのか」(読売社説)などとしています。補正予算規模は10兆円を超える規模になる見通しで、「経済危機でもないのにあまりにも過大である」(読売)を批判されています。財政規律、利上げ、供給力の強化がインフレ対策の常道なのに、高市政権はその反対をやっています。
高市財政は逆噴射の恐れ
物価高に苦しむ生活支援として、「おこめ券」、「こども一人当たり2万円支給(所得制限なし)」、「電気・ガス代補助」などは、需要を増やし、物価を押し上げる。物価高対策と称して、さらなる物価高をもたらす政策とりたいのでしょう。「財務省案はしょぼいどころではない。やり直し」と高市氏は突き返し、4兆円の積み増しをしました。
台湾有事と存立危機事態の問題でも、高市氏は「今後、特定のケースを明言することは慎む」と反省の弁を述べました。それでも日中関係は悪化の道をたどっており、経済、景気に悪影響がでる懸念があります。首相になったら持論に酔わず、財政金融でも全体像を把握して行動する必要があります。
今回の総合経済対策に対し、市場はトリプル安(円安、債券安、株安)という反応をみせました。高市氏をけん制できるのは、政界ではなく、市場でしょう。市場は高市氏に忖度などしません。
高市氏は安倍・元首相の後継者、アベノミクスの後継者とされてます。それで財政拡張政策、低金利政策をとっていくようです。そのアベノミクスは日銀の検証(24年12月)によって、「大規模、長期にわたる異次元金融緩和は副作用が大きい」と結論づけられ、はっきりいえば失敗だったのです。
安倍氏の継承者ならばその残務整理を
高市氏が継承者を自称するならば、アベノミクスの負の遺産(巨額の発行残高、金融機能の喪失)の残務整理だと、私は思います。その逆のことをやってはいけません。
チャットGDPに「過去に、財政状態が悪化した国は危機を解決するのに、どの程度の年数を要したか」を質問してみました。答えは「米国35年(1946年~)、英国40年(1950年~)、イタリア30年(1995年~)」などでした。
「高インフレ、長期的な財政黒字、強い経済成長率などで解決した」という指摘です。
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2025年11月22日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。






