電話による米中首脳会談の直後に行われた日米首脳会談の中身が次第に分かってきました。「台湾有事」に言及した高市首相に対して、トランプ氏が「台湾有事に言及する認識は誤り」と、外交のイロハを教えようとしたと、私は解釈します。
日米会談の中身について、高市首相、木原官房長官は、当たり障りのない説明をしてきました。それに対し、米ウオールストリート・ジャーナル紙が、米当局者に対する取材から「トランプ大統領は、台湾に関するトーンを和らげ、中国を挑発しないよう助言した」と報道しました。この異例の要請に対し、木原官房長官は「そのような事実はない。そう同紙に申し入れた」と述べました。
官房長官の発言は、外交上の管理行動であり、このような機微に触れる問題が日米首脳の間で話合われたことを伏せるのが仕事でしょう。同紙の報道が事実であるかないかを官房長官発言から判断することの意味はない。
トランプ氏の命令調にWSJ紙の見出しが変わった
そうしましたら、同紙報道の見出しが当初、「トーンを和らげるよう助言した」がその後、(こうした問題で)「中国を刺激しないために、公の場での発言を控える助言した」に変わっているとの報道がありました(フジテレビ)。「トーンを和らげるよう」に比べ、「公の場での発言を控えるよう」はかなり強い意味を持っており、命令調でもあります。
読売新聞、日経新聞などはこの問題に深りすることは避ける編集方針のようで、読んでいても真相が分かりません。一方、朝日新聞は28日朝刊の一面トップで「日中対立、沈静化を。トランプ氏が電話協議で高市氏に」とでかでかと報道しました。WSJ紙を受けて「複数の政府関係者を取材したところ、電話協議はトランプ氏の申し出で急きょ、セットされた」とも書き、トランプ氏は習近平国家主席からも「高市首相を何とかとしてくれ」というような要請を受けた流れになっているようなニュアンスの記事です。
日本メディアの報道、中国政府側の反発という応酬は台湾有事問題を過熱しかねない。ですから読売、日経はだんまりを決め込んでいるのでしょう。果たしてそれでいいのか。高市氏の言動をみていると、米中関係、国際情勢、これまでの台湾問題の扱いの流れを的確に把握していえるとは思えない。高市氏の首相としての基本的認識を問うことはメディアの責任です。高市首相が考えるべき外交のイロハ、世界情勢認識のイロハをいくつか拾ってみました。
トランプ氏が教えたかったイロハ
①米中間の対立は今後も続くにしても、全面衝突のような事態は避ける。特に機微に触れる台湾有事問題には触れない。先のに米中首脳会談でも、台湾問題を議題にしなかったのそのためと思われる。
②トランプ氏が「G2」という表現を持ち出しているのは、武力行使を伴うような対決は避けつつ、世界を米中で仕切っていくという含意がある。台湾関係法でも、米国による台湾防衛を保障するものではなく、台湾有事への軍事介入を確約しない「戦略的曖昧さ」を基本にしている。
③高市首相が「台湾海峡封鎖、戦艦の投入、存立危機事態(自衛隊の出動)」などの発言をしたことは、「戦略的曖昧さ」と真逆の認識を示し、さらに「どう考えても」と強調したことも余計な発言で、発言するなら「どう考えても、そうした事態を避けるべきだ」が正解でした。
④長期的に考えれば、G2時代が進み、東アジアに対し、米国が距離を置きだす将来もありうる。米国は対中関係で強くでられないことがはっきりしてきた。中国も国内経済の混乱、人口減、長期化する習政権への反発な内憂が少なくない。米中は全面的対決を避けながら、自らの政権を維持するために、互いに譲らないという宣伝戦は続けるだろう。
対米依存の習性で外交問題を独自の頭で考えない
⑤そうした歴史の流れがありうることを国家のトップは見据えていなければならない。右派、右翼は反中ナショナリズムが燃え上がると、自分らの存在感が上がると思っているかもしれない。国家のトップは個人ではなく、国家の代表としてどう行動すべきかを考えるべきだ。
⑥日本は過剰な対米依存から抜け出せていない。対米依存を守っていくことが外交上、最大の戦略だと考える保守派は多い。高市氏もその一人で、米原子力空母上で、トランプ大統領に「あなたは勝利者」と持ち上げられ、小躍りして喜んだ姿は国家のリーダーとは思えない。政治専門家、ジャーナリストらに「高市氏は素晴らしいロケット・スタートを切った」ともち上げた。今、少しは反省しているでしょう。

日米首脳会談でのトランプ大統領と高市首相 首相官邸HPより
編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2025年11月28日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。






