ヘグセス米戦争長官、中国との「休戦」を提案?:日本だけが「緊張路線」へ傾斜

米国のピート・ヘグセス戦争長官がカリフォルニア州で開かれたレーガン防衛フォーラムで演説し、新たに発表された国家安全保障戦略(NSS)の核心を公表した。

産経新聞のまとめによると、同戦略は、①米本土および西半球の防衛、②力による対中抑止、③同盟国の負担拡大、④米防衛産業基盤の強化を最優先事項に掲げ、従来型の軍事中心主義とは一線を画した「経済安全保障」を前面に打ち出している。

一方でヘグセス長官は、中国に対して明確な「安心供与」を行った。「我々は中国の成長を締め付けるつもりはない。支配したり屈辱を与えたりもしない。台湾の現状変更を望んでもいない」と述べ、台湾への武力侵攻など中国側の「強制的措置」さえなければ、米中関係には協調の可能性が残されていると示唆した。

軍事衝突を必然とみなす言説とは一線を画した発言であり、一部では「事実上の休戦シグナル」との解釈も広がっている。

2025年11月マレーシアで会合したヘグセス戦争長官と小泉進次郎防衛大臣 同大臣Xより

トランプ政権中枢も「刺激抑制」へシフト

英フィナンシャル・タイムズ紙は、トランプ大統領の最側近であるスティーブン・ミラー大統領次席補佐官が、各省庁に対して「中国とのデタント(緊張緩和)を脅かす行動をとらないよう調整している」と報じた。貿易交渉の履行を優先するため、米政府内部で対中強硬措置が「差し止め」られているという内容だ。

「地政学中心の対中戦略は終わった」──米専門家

米シンクタンク・外交評議会のディビッド・サックス研究員は、新NSSを「経済を最終利益と位置づける転換点」と評する。

「中国が登場するのは29ページ中19ページ。中国はもはや「システミックな挑戦者」ではなく、主として経済競争相手として扱われている」

サックス氏は、初期トランプ政権の「インド太平洋の覇権競争」という言い回しが文書から完全に消えた点を強調する。さらに新NSSは、中国との「相互に利益ある経済関係」を構築する可能性まで示しており、対中デカップリング論とも距離を置いている。

「同盟ではないが敵でもない」──アルノー・ベルトランの読み解き

フランスの起業家で国際政治分析で注目されるアルノー・ベルトラン氏は、今回のNSSの中国認識を次のように整理する。

  1. 中国は主として経済競争相手
  2. サプライチェーン脆弱性の一因だが重要な貿易相手でもある
  3. 中国の地域的覇権は「理想的には」阻止すべきだが、それは米国経済への影響が理由である

つまり、イデオロギー的・軍事的対決構図ではなく、「現実的な経済競争管理」としての対中政策へと舵が切られつつあるという分析だ。

日本だけが「緊張路線」へ傾斜──米国は不快感?

一方で日本に目を向けると、高市総理による「台湾有事」発言以降、日中関係はぎくしゃくしている。さらに、安保法制の枠組み上、「存立危機事態」は米国が台湾有事への関与を明確に決めない限り発動できないため、米国が伝統的に採用してきた「曖昧戦略」を日本が事実上先回りして崩す形になったとの指摘がある。

『週刊文春』によれば、トランプ大統領は高市氏に「台湾問題に口を出すな」と強い口調で伝えたとされ、米側の不快感がにじむ。

その最中に「レーダー照射」──緊張と“休戦”が同居する奇妙な局面

こうした外交的ぎくしゃくの最中、日本の防衛省は、中国海軍戦闘機が航空自衛隊機に対し「レーダー照射」を行ったと発表した。これは偶発的衝突の危険が高い重大な事案であり、日中関係はまさに一触即発の様相を呈している。

米中は「デタント」、日中は「緊張」──ズレ始める戦略軸

ヘグセス長官の「安心供与」発言や、ミラー補佐官による緊張緩和調整、そして新NSSの「経済重視」への大転換を総合すると、トランプ政権は「米中の全面衝突回避」を強く意識し始めているように見える。

しかしその一方、日本は米中双方の戦略転換とのギャップを抱えながら、日中間では実際の軍事リスクが高まっているという極めて複雑な局面に置かれている。

米国が「休戦」を模索する中、日本周辺では緊張が高まる。この「戦略のねじれ」が、今後の東アジアの安全保障環境に大きな不確実性をもたらしている。