世界の金利見通しの疑問

金利は今後どうなるのか、というテーマは時として茶の間の話題になるほど生活に影響を与えるものですが、専門家はその行方を1年以上先まで見通す水晶玉を持っているようです。ただし、その水晶玉は時として曇っていたり、時々に見通しを変えるので「あれ、以前と話が違う」ということはしばしば起こりえます。ところが市場の専門家は予想を変えることを何一つ躊躇せず、前言撤回などという大げさなことは絶対に言わず、「その時にはその時の風が吹くものだ」ぐらいであります。ならば市場専門家は単なる放言師なのか、と言いたいところでしょう。

最近の金融関係のニュースを見ていると金利の先行きについてずいぶんはっきりとした発言が目に留まります。端的に言えば欧米カナダは利下げのサイクルがもうそろそろ終わるのだ、というトーンです。私からすれば「それを言うのは早すぎやしないか?」と思うのですが、彼らは彼らの言い分があります。

基本的には金利は上がり下がりを繰り返すので必ず、ピークやボトムがあり、そこから反転するのが常であります。欧米カナダは金利を徐々に下げていくサイクルにあり、カナダの現在の金利2.25%はこれ以上はもう下がらないのではないか、という下げ止まり領域に入っています。

政策金利が2.15%の欧州についてはブルームバーグの次期ECBの総裁候補の一人、シュナーベル理事へのインタビュー記事で「市場と調査の参加者は近いうちでないにしろ、次の金利の動きが利上げになると予想している。そうした見通しにむしろ違和感はない」とし、ロイターはスロバキアの中銀総裁が今後数か月は金利を見直す必要はないと述べたことを受け「この発言でECBの利下げは終了との市場の見方が強まりそうだ。成長率と物価のデータがともに上振れしたため、市場は来年も追加緩和の可能性はほぼないと見ている」と報じています。

アメリカについては現在の政策金利(FF金利)が3.75-4.00%なのですが、今週利下げの期待が高まっています。その上で来年あと2回の利下げを見込んでいることからその見込み通りだとすれば来年末は3.00-3.25%になるとみているようです。市場の一部の見解をみると「金利の下げ止まりが遠くに見えてきたのでそろそろ投資のスタンスについても見直しか」といったトーンの記事がポツポツ出始めてきています。JPモルガンのストラティジストは「年末に向けて新たに方向性リスクを積み増すより、これまでの利益を確定させたいと投資家が考える可能性がある」とかなりの先読みをした発言をしています。

植田総裁(日銀HPより)パウエルFRB議長(Board of Governors of the Federal Reserve System SNSより)

これだけ読むと世界主要国の金利と景気は来年あたりをボトムに反転するように読めます。私にはそれがまだ早いような気がしてならないのです。

端的に言えば経済はまだら色だと思うのです。景気の良い産業もあればそうではない業種もあります。たとえば欧米カナダのスタンスは人流と移民の抑制です。そうなると厳しいのが不動産、建築、学校、教育で、それらへの影響が先に来てその後、様々な業種に波及しやすくなります。カナダの報道では「金利がこれだけ下がったのに住宅がさっぱり売れず。トランプ関税など何か他に理由があるのでは」という憶測を呼んでいます。

まだら色に拍車をかけるのがAIやフィジカルAIの普及予想に対する生身の労働者の恐怖感です。彼らの仕事がもしもAIに取って代わるかもしれないという懸念を持てば消費どころではないのです。景気に対して非常に保守的になり、混乱に近い過渡期が起こるかもしれません。労働組合はストライキを頻発させるでしょう。とすれば実際にフィジカルAIが導入されてもいないのに猛反対運動で企業は経営的影響を受けるといった可能性を金融の専門家は考慮しているとは思えません。

確かに金融の専門家は「それは俺の範疇外」だと堂々と言うでしょう。しかし、聞く方は肩透かしにあうのです。そして「違うじゃないか!」と文句を言うでしょう。予想の見通しとはどれだけ多くのエレメント(要素)をその予想理由に取り込むかによりまるで違う答えが出てきます。例えば欧州についてはその地政学的影響が大きいロシアとウクライナの戦争の行方、更には和平があった場合はその条件次第だし、ロシアはもう蛮行をしないのか、という予想をどこまで織り込むか、その判断は至難の業だろうと察します。

私はこのブログを通じて様々な話題を振っています。それは単に興味本位ということではなく、世界がそれだけ複雑に絡み合い、専門家が専門領域だけを見て物事を判断する時代は終わったのだと考えているからです。以前、学際ということを述べました。学問の際(きわ)、つまり教育の世界でもさまざまな分野の学問との絡み合いをみないといけない時代になったわけですが、ビジネスやマーケット分析でも当然それは必要になってきたと言えるのです。市場のアナリストが小難しい言葉と専門的数字を並べて「どうだ、これが俺の答えだ!」と言ってもその前提が崩れればそのロジックはほとんど意味をなさないのです。

もう一つ、先進国における金利はもうそれほど上がるものではない、という点です。経済が成熟すると経済成長率はせいぜい2-4%に収まるため、金利が6%や7%にもなるケースは平常時では起きないのです。前回の異様なまでの金利上昇はコロナ反動の物価高だったと考えています。よって「需給のしわ」がとれるに従い、物価は下がり、金利は下がったのです。コロナのような事態が極めて異例だったとすれば景気はよりフラットになり、金利動向もフラットになると考えるのがナチュラルです。

私は世界の金利が近々底打ちし、反転するという専門家のその言葉が無責任に思えるのです。反転がイメージするのは6%とか7%の時代がまた来るのか、という感じだと思いますが、専門家に「次の金利の山はどのぐらい上まであるでしょうか?」と聞いたら答えるのは容易ではないと思います。

そういう観点で物事を見ていかないと我々は騙されやすく、惑わされやすいと言えそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月9日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。