公約達成率17%:中野区政が直面する成果なき事業と財政の構造的課題

中野区新庁舎
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中野区が現在抱える課題は、単なる予算超過にとどまるものではない。区民の期待に応えるはずの施策が成果に結びついていない現実と、構造的な財政リスクが同時に進行しているという、危機的状況にあるといえる。

1. 成果指標は17%:目標なき事業執行の懸念

2025年4月、中野区議会総務委員会で報告された「中野区基本計画の進捗状況」は、区政の現在地を厳しく突きつけている。成果目標の達成率は全112項目中わずか19項目で、達成率は16.9%という極めて低い水準である。

一方、政策・施策に基づく事業は全401事業中92.5%(371事業)が実施されている。この事実は、多くの事業を精力的に進めながらも、区民生活の質の向上や設定された基本目標の達成には全く結びついていないことを意味する。

私自身研究者としての経験から断言するが、初期設定(仮説)が誤っていれば、どれほど努力を積み重ねても成果は生まれない。成果指標の改善に繋がらない事業には、抜本的な見直しが不可欠である。

表1 中野区の施策の成果指標の進捗状況
出典:中野区基本計画の進捗状況

表2 政策・施策に基づく主な事業の進捗状況
出典:中野区基本計画の進捗状況

2. 異常な経常経費の上昇と財政規律の崩壊

成果なき事業が継続されているにもかかわらず、中野区の財政は危険なシグナルを発している。

経常経費充当一般財源等は令和5年度から令和6年度にかけて115億円増加し、経常収支比率は10.1ポイント上昇して81.3%に達した。新庁舎建設や物価高騰の影響を差し引いたとしても、この増加は異常と断じざるを得ない。

最大の要因は、新規事業の費用が単年度で終わらず継続され、「経常経費化」していることにある。令和5年度の新規事業等が翌年度に継続することで、22.9億円が経常経費化した。

しかし、歳入である一般財源の増加は16億円にとどまっている。

歳入の伸び(16億円)を上回る経常経費の増加(22.9億円)は、収支の均衡が崩れていることを示し、放漫財政と評価せざるを得ない。しかも、これらの経費増が成果指標の向上に全く結びついていない点が、問題をさらに深刻にしている。

図1 形状収支比率の推移・経常経費充当一般財源等と歳入経常一般財源等の推移
出典:中野区財政白書(令和6年度決算),p24

図2 新規・拡充等事業から一般事業費となった事業一覧
※ 一部抜粋(3ページ中の1ページ))

図3 一般財源の推移
出典:中野区財政白書(令和6年度決算),p6

さらに、全国的な建設費高騰により、公営施設の建て替え・維持管理費が厳しくなるという構造的問題も進行している。詳細は「中野区施設の長寿命化計画、妥当か無謀か:中野サンプラザはどうなる?」に譲る。

中野区施設の長寿命化計画、妥当か無謀か:中野サンプラザはどうなる?
中野区は今、大きな転換点に差し掛かっている。今年4月24日に開かれた総務委員会で、区有施設整備計画の更新において、耐用年数の見直しがされることが報告された。これまでの「建築後60年で建替」という方針から、「建築後80年まで延命も可能...

3. まとめ

目標なき努力は浪費であり、財政規律なき支出増は無責任である。

達成率17%の成果しか生み出していない事業に対し、歳入の伸び(16億円)を超える経常経費(22.9億円)を投じ続けることは、区民の期待と税負担への重大な背信行為である。成果指標の改善に繋がらない事業には抜本的な再設計が求められるが、現状のように増収以上に経常経費を膨張させる運営は、すでに財政規律の崩壊の域に達している。

このままでは、中野区政は成果を生まない事業の実行と、構造的な財政悪化という負のスパイラルに陥り続けることになるであろう。