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中野区は今、大きな転換点に差し掛かっている。今年4月24日に開かれた総務委員会で、区有施設整備計画の更新において、耐用年数の見直しがされることが報告された。これまでの「建築後60年で建替」という方針から、「建築後80年まで延命も可能」とする新たな方向へと舵が切られた。
これは、建設コストの高騰に伴い、既存施設の長寿命化によって財政負担を軽減する必要がある、という判断によるものである。また、日本建築学会「建築物の耐久計画に関する考え方」や他自治体の事例を参照し、適切な保全工事を施せば、施設を80年使用することも可能だと区は判断した。
しかし、その前段として、何故このような方針とする必要があるのかといえば、中野区の財政が将来的に悪化する懸念がある。要因として社会情勢もありますが、最大の要因は2つある。
ひとつは新・中野サンプラザ再整備計画の頓挫により、近々収受の予定であった転出補償金400億円がなくなったことである。

もうひとつは図1に示すように中野区の経常経費である一般事業費が、物価上昇率を優に超える上昇率で、財政を圧迫しているためである。


図1 一般事業費の急増
将来を考えると耐用年数80年への変更は致し方ない判断でありますがこれまでの失政を顧みていただきたい。
この計画の変更には慎重な視点が必要です。施設の「延命」には、継続的な中規模・大規模改修が前提となるが、果たしてこれまで中野区の施設でそのような計画的保全が実施されてきたかは明示されておらず、区には実態調査を求めているところである。
長寿命化は理にかなうか? 他自治体の事例から
例えば、富山県氷見市では、築20年・60年での大規模改修、築40年での機能向上を目的とした長寿命化改修を行う計画が示されている。また、別府市では15年ごとの定期修繕が基本である。
一方、愛知県豊明市では、劣化が進んでいる施設が多いという実態から、建替年数を「80年」ではなく「65年」としており、80年はあくまで「目標」に過ぎません。西尾市の調査では、築30年以上経過した鉄筋コンクリート造の施設のうち、耐用年数が80年以上と評価されたのは全体の約58.8%にとどまった。
このように、「80年」を一律の耐用年数として前提にしてしまうことには大きなリスクがある。最新の調査結果を基に個別判断を行うべきであり、80年はあくまでも「延命可能な場合」の目安であるべきだ。中野区は今後10年間の財政運営について「財政フレーム」として試算しており、この耐用年数80年を前提に組むのは、極めて危ういと言える。
区有施設整備のあり方については人口動態とそれに伴う財源、社会ニーズ等を勘案して、策定していかなければならない。
そして、その方針であれば、中野サンプラザも耐用年数80年ということになり、築52年であるため、寿命はあと28年間となる。このことについては後日、考察を述べさせていただく。