かつてイングランド銀行総裁として、国際的なネットゼロ金融ネットワークGFANZを創設するなど、環境金融を牽引していたマーク・カーニー氏が、カナダの首相になった途端に、 石油やガスの大増産に舵を切って、環境運動家から批判を浴びていることを、藤枝氏が、以前、アゴラの記事で紹介してくれました。
環境金融の大司教、マーク・カーニーが改宗して化石燃料を推進する


カナダ マーク・カーニー首相インスタグラムより
この時はウォールストリート・ジャーナルという、どちらかと言えば環境金融寄りではない新聞に基づいた紹介だったのですが、 その後、環境金融の推進に熱心であったフィナンシャル・タイムズ(FT)も、このマーク・カーニーの変節を長大な記事で報道しています。
Mark Carney’s fossil fuel pivot bewilders climate experts and business leaders

このFT記事から一部を抄訳してみましょう。
かつて国連気候変動特使を務めた人物らによると、カナダのマーク・カーニー首相が米国の貿易敵対行為に対抗するために化石燃料を受け入れたことで、気候変動について早期に警鐘を鳴らした彼の功績が台無しになっているという。
今年就任以来、カーニーはカナダの消費者向け炭素税を廃止し、石油・ガス業界に働きかけ、ドナルド・トランプ米大統領の包括的な関税措置への対応として、電気自動車の販売を促進する計画を打ち切った。
ここ数週間、カーニー氏は、アジアの新市場向けにカナダの液化天然ガス生産量を 2 倍に拡大することを 公約 した後、1日あたり100万バレルの原油を追加生産する契約にも 署名 しました。
元環境大臣のスティーブン・ギルボーは抗議してカーニー内閣を辞任し、連邦政府のネットゼロ諮問機関の創設メンバー2人も辞任した。
「これ以上妥協はできず、我々は間違った方向に向かっているのではないかと懸念している」とギルボーはフィナンシャル・タイムズ紙に語った。
ところで、FTといえば、2015年に日本経済新聞社が買収したFTグループの中核で、日経グループ傘下にあります。 これまで、日経も、環境金融を推進する立場から、 フィナンシャル・タイムズ経由の情報を頻繁に日本語の記事にしてきました。
ところが、このマーク・カーニーの変節の件に関しては、 これだけ大々的にフィナンシャル・タイムズが報じたのにもかかわらず、少なくとも私が確認できる範囲(紙面・電子版の見出し検索等)では、日経新聞がこの重要な事案を正面から報じた形跡は見当たりません。
日経とFTの関係を踏まえれば、日経編集部がこのFT記事の存在を把握していないことはちょっと考えられません。ならば、日経新聞に記事が出ない理由は、環境金融を推進するというこれまでの論調や社の編集方針と整合しないからではないか、という疑念を抱かざるを得ないのではないでしょうか。
もしそうでないなら、日経新聞さん、ぜひこのマーク・カーニーの変節の件についてきちんと報じてください。 日本には、このマーク・カーニーが創始した環境金融に参加して日々の業務をこなしている企業の方々がたくさんいます。 彼らは、環境金融について、単なる推進派の意見だけではなく、現状についての正確な情報を知る権利があると思います。
FTは、カーニー氏がGFANZなど気候金融を牽引してきたリーダーであった点と、首相就任後の政策転換ぶりを、対比して、きちんと記事にしています。これにもかかわらず、日経がこの件を日本語で伝えないなら、日本の読者は、環境金融の現実について、片面しか知らされないことになります。
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