手探りのアメリカ経済:トランプ関税とAIの進化で失われる雇用機会

アメリカが風邪をひけば世界では肺炎患者が続出になるほど世界経済への影響は大きいとされます。長年アメリカを見続けてきた中で個人的にはさて、大丈夫なのかな、という気持ちがいつもより強いのは何故なのでしょうか?

待望?のアメリカ雇用統計が発表になりました。10月分、及び11月分のデータですが、一言、冴えないと申し上げるしかありません。10月はマイナス105000人、11月はプラス64000人でした。10月のマイナスは政府機関のシャットダウンが効いています。ただ問題はそこではありません。今年5月以降、ほぼ労働市場がゼロ成長になってしまっているのです。

5月プラス19000人、6月マイナス13000人、7月プラス72000人、8月マイナス26000人、9月プラス108000人となっており、5月から11月分までを足すとプラス119000人です。アメリカの雇用は月20万人程度の増加を健全なる労働市場の目安としてきただけに7か月で12万人足らずの雇用増加はほぼ何も生み出していないのと同じなのです。

この要因は複合的であります。トランプ関税とAIやテクノロジーの進化で雇用機会が奪われれているのは明らかであります。また雇用を求める人たちの取捨選択もあるし、奨学金返済のために賃金レベルを下げられない人も多く、ジレンマに陥っていることもあるでしょう。若年労働者の失業率は現在10%程度ですが、民主党のワーナー議員は今後2-3年以内に25%に上昇するリスクがあると指摘しています。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

AIは雇用を脅かすのか、という議論は以前からあり、代替できると主張する意見と今回はそう簡単ではないとする意見に分かれています。私の意見は後者です。

先日あるIT関係の方と話をしていた際、自分の職を含め、AI化が急速に浸透しているため、自分の仕事がAIに淘汰されるか、AIを使う側に残れるかの瀬戸際にあると述べていました。さらに業務経験が10年もあれば生き残り対策を考えることも可能だが、エントリーレベルの人がAIを使う側になることは至難の道であろうと言っておりました。これは何を意味するかといえばITの一部の業種は入り口が実質的に閉鎖され、「新入りお断り」状態になりつつある点であります。そうだとすれば前述のワーナー議員の指摘はあり得るのかもしれません。

以前、「アメリカの大卒が目指す配管工」という衝撃的な報道があり、私もこのブログでお伝えしたと思いますが、AI化による労働環境の変化が急速かつ、ドラスティックすぎて職を求める人たちにそのトレーニングを受ける余裕すら与えない可能性が出てきているのです。AI搭載のヒューマノイド型ロボットの普及は待ったなしであります。

今、就職期を迎える人たちの多くはデジタルエイジであります。生まれてからデジタルと接してきており、学校でも友人とのやり取りも全てデジタルという中で自分が目指す職業もデジタルに関連する業務が多くなっています。バンクーバーは留学生のメッカとされますが、ここでも人気なのは「デジタルマーケティング」といった学科であります。SNSや動画をマーケティングと絡ませる内容で、私から見ればマーケティングのごく一部のテクニック論でしかないのですが、そこを目指す学生がどっと押し寄せます。が、果たしてそれが功を奏すか、狭き門になりつつあるということです。

ではもう少し大きなピクチャーで経済を見るとどうでしょうか?ここに来て倒産件数増加が気になります。ファーストブランズ、トライカラー、数日前にはLidarの先駆者だったルミナ―も倒産しました。またフォードがEVトラック撤退を発表するなど自動車関連業界の倒産や不振が目立ちます。倒産理由は様々ですが、市場が成長しない中で競合が激しくなり、借り入れコストの上昇や返済ができなくなるケースが目立っています。

今年は自動車関連でしたが来年はAI関連の倒産/身売り/経営不振が必ず出てくるはずです。以前から申し上げているように収益に結びつけられるAI関連事業は現状5%ぐらいしかなく、残りは巨額の赤字を抱えています。来年オープンAI社も上場する話がありますが、ご多分に漏れず巨額赤字です。一社でも倒産、ないしAI投資過多による経営難の話がでれば投資家が一斉に手を引く可能性があり、これが急速な市場の収斂を招く可能性はあるでしょう。つまり紙一重の中、人間社会がそこまでAIを必要としているのか、議論がまだ始まっていない点が私には不安の材料であります。

もう一つ、トランプ政権が打ち出した数々の政策が果たして機能するのか、その成果が見えてくるのも2026年になります。政策、特に経済関連はその結果のデータが出てくるまで半年程度のタイムラグがあります。例えばトランプ関税の場合、夏ごろに施行されたわけですが、企業はそれまでに駆け込みで在庫を大幅に増やしていました。よってその在庫がはけるのが今頃であり、企業の売れ行きがデータとして出てくるのは2月頃からポツポツ表れてきます。これで6か月です。移民政策も同様。トランプ減税もそう。トランプ氏が自由に暴れられるのは初めの1年だけであり、2年目はその成果と中間選挙があり奇策は打って出られないのです。

では利下げで対応できるか、という議論はあるでしょう。ただ、パウエル議長が年明けに更に利下げする確率は低いと思います。雇用が目に見えて悪化したとしても1月28日は動かないとみています。すると次は3月18日、その次が4月29日です。パウエル氏の退任が5月で最終回である4月29日では政策変更はしにくいですから唯一の可能性は3月18日とみていますが、ここはデータ次第でしょう。

それと利下げで対応できるような問題というより構造的な問題を内包しているとみています。あまり明るい未来を述べられていませんが、そんなに手放し状態ではないとそばで見続ける限り感じていることです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月18日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。