相続で家族が壊れる。『知らなかった』では済まされない

gogondayo/iStock

親が死んだ後で「知らなかった」では遅い。遺品整理をしながら、ふと思った。もし母が都内に不動産を持っていたら、自分は何を確認していただろう。恥ずかしながら、何も知らなかったと思う。

相続の話なんて、「縁起でもない」と避けてきた。多くの日本人がそうだろう。でも、それで破滅する家族を、この仕事で何度も見てきた。

今回紹介するのは、不動産相続アーキテクツ代表・高橋大樹さんの著書「あなたの実家、どうする?」(WAVE出版)だ。読んで背筋が寒くなった。他人事じゃない。

仲良し三兄弟が絶縁するまで

Aさんは成功者だった。念願の田園調布に邸宅を構え、3人の息子に平等に相続させるつもりだった。周到な計画、のはずだった。

ところが。

田園調布には「165平米未満に分割してはならない」という住民協定がある。つまり、3等分は不可能。誰も土地全体を買い取れる資金はない。

長男が言った。「売るしかない」
次男が怒鳴った。「親父の家を他人に渡すのか」
三男は黙っていた。

で、どうなったか。

幼少期からの確執が噴出した。表面上の冷静さなんて、あっという間に崩壊する。最終的に弁護士を立てる泥沼の争い。3人は完全に絶縁した。

仲が良かったはずの兄弟が、だ。

いや、むしろ仲が良かったからこそ、なのかもしれない。期待があった分、裏切られた感が強い。愛情の裏返し——よく言うが、遺産相続ほどそれが露骨に出る場面はない。

査定3000万円が1000万円に

もう一つの事例。Bさんは都内30坪の土地を相続した。駅徒歩10分、査定3000万円。まあまあだ、と思った。住宅ローンの返済、子どもの教育費――頭の中で計算していた。

結果、査定1000万円。

理由? 前の「道路」が、建築基準法上の道路じゃなかった。見た目は普通の道路だ。車も通る。宅配も来る。でも法律上はダメ。

既存の建物には住めるが、壊したら新築は建てられない。それだけで価値は3分の1だ。

これ、役所で確認すれば分かる話だ。都市計画課に行って「接道義務を果たしているか」と聞くだけ。たったそれだけで、2000万円の差が事前に分かった。

でも誰もやらない。というか、知らない。

専門家を呼べ。それだけだ。結論は単純だ。

相続トラブルは、家族だけで解決できない。感情が入りすぎる。時間が経つほど悪化する。税理士、弁護士、不動産鑑定士——「この分け方は公正だ」という客観的な保証が必要なんだ。

  1. 土地が建築基準法上の道路に面しているか(役所で聞く)
  2. 地域の住民協定や条例(田園調布だけじゃない、高級住宅地は要注意)
  3. 市場価値の正確な把握(昭和の郊外物件は危険信号)

親が元気なうちに、冷静に話し合おう。感情的にならずに、数字で語ろう。それだけが、家族を守る方法だ。も年末に家族会議はどうだろうか? 気まずいけど、やってみよう。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)