自国「年収の壁」178万円引き上げ合意で所得税の存在意義がついに崩壊

自民党と日本維新の会は19日、2026年度税制改正大綱を決定し、所得税の課税最低限、いわゆる「年収の壁」を178万円へ引き上げる方針を盛り込んだ。18日に自民党と国民民主党の合意を背景にした改正だが、その内容は働き控え解消や公平性の観点から多くの歪みを残している。

  • 所得税が課される最低ラインを、現行160万円から178万円へ引き上げる方針を決定した。これは基礎控除と給与所得控除の合計額であり、26年から両控除をそれぞれ4万円引き上げ、26年と27年は特例で178万円に到達させる仕組みである。
  • 引き上げの適用対象は年収665万円以下に限定され、納税者の約8割が対象とされる。一方で、年収665万円をわずかに超える層では基礎控除が急減し、所得税が一気に増える「壁」ないし「崖」が新たに生じる。
  • 具体的には、年収665万円(所得489万円)を境に、基礎控除が104万円から67万円に減少し、その差37万円分により、所得税が約3万7千円増える設計となっている。新たな「壁」を税制で作った形だ。
  • 今回の減税額は限定的で、25年度改正分を含めても年収200万円で約2万7千円、600万円で約5万6千円にとどまる。
  • 最も恩恵を受けるのは、すでに非課税世帯が多く、医療費負担も軽減されている年金受給者層との指摘がある。一方、現役世代の可処分所得改善や労働参加の促進効果は限定的だ。
  • 扶養内で働く主婦層についても、社会保険料の106万円・130万円の壁が残るため、178万円への引き上げでは働き控えは解消されないとの見方が大勢である。実際の「壁」は所得税ではなく、社会保険制度にある。
  • マスコミが多用する「年収の壁」という表現も問題視されている。今回の改正は壁の撤廃ではなく、課税最低限の引き上げにすぎず、課税ベースを約500万人分縮小し、日本人の6割を非課税世帯化する改悪とも言える。
  • 高所得層についても歪みは残り、税制全体の中立性と簡素性はさらに損なわれた。
  • 本来必要なのは、給付付き税額控除の導入などを含む抜本的な税制改革と、社会保険料制度の見直しであり、小手先の控除引き上げでは問題の核心には触れていない。

今回の「年収の壁」引き上げは、課税最低限の調整を政治取引の材料にしたに過ぎず、税制の公平性と一貫性をさらに歪めた。働き控えの本丸である社会保障改革には踏み込まず、新たな崖と関所を生んだだけの改正であり、抜本的な税・社会保障一体改革が改めて求められている。

「年収の壁」について合意書を交わした高市首相と国民・玉木代表 高石首相Xより