高額療養費、年収200万円未満は負担軽くhttps://t.co/bfyTT2k28X
月の支払い上限額に年3回達した場合に4回目移行の限度額を下げる「多数回該当」。住民税を課税される人で年収200万円未満の層は限度額を引き下げます。2026年夏以降に順次施行する方針です。 pic.twitter.com/CpqQ9NN9Ig
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) December 15, 2025
「年収200万円未満は多数回該当の負担を軽くする」。
一見すると低所得者への配慮に見えますが、制度全体の方向性を見ると、やはり筋が悪いと感じています。
厚労省の専門委員会は、毎月の自己負担上限(1〜3回目)を引き上げる一方で、長期療養者の多い多数回該当(4回目以降)は原則据え置き、加えて「年間上限」を患者本人の申出を前提として導入する考え方を示しています。
まず前提:高額療養費は“万が一”のセーフティネット
高額療養費制度は、医療費が高額になったときに所得区分に応じて月の自己負担に上限を設ける仕組みです。さらに、年に複数回上限に達した場合に4回目以降の上限が下がる多数回該当があり、がん・難病など長期療養が必要な方にとって命綱になっています。
だからこそ、ここを“引き上げ”方向で触ること自体が、制度の設計思想として逆立ちだと考えています。
問題点①:「大きなリスク」を保険で薄くし、現役世代に負担を背負わせる改悪
医療保険の原理原則は、大きなリスク・大きな出費は保険でしっかり守り、小さなものは自己負担で適正化することです。
しかし今回の方向性は、まさに“万が一に備える”高額療養費のうち、1〜3回目の上限額を引き上げる考え方が中心になっています。
これは、長期療養や重い疾病に直面したときの負担を厚くするのではなく、むしろ普段から高額な保険料を納めている現役世代に「いざというときの大きな負担」を背負わせる方向に見えます。
所得のある現役世代から見えれば、税も保険料も負担が大きいのに、いざというときの保障が薄い。民間の保険であれば、払う金額が多ければ保障が手厚くなる制度設計があるべき姿です。
応能負担を大義名分に、結果として働く世代がリスクを引き受ける改悪になっていないか、強く懸念しています。
問題点②:先に「医療費の窓口負担が1割になっている状況」に手をつけるべき
そして、改革の優先順位が違います。
いま日本の医療費増大に影を落としているのは、入院や高額医療ももちろんのことながら、外来を中心とした“頻回受診・薄く広い医療費”です。
そして後期高齢者はその窓口負担が原則1割になっており、頻回受診を引き起こす大きな要因になっています。
ここにほとんど触れないまま、高額療養費という「最後の盾」を薄くするのは、保険制度としての優先順位を取り違えていると思います。
改革するなら、まずは窓口負担のあり方を正面から見直すべきです。
問題点③:高齢者の「外来特例」という特権が温存される
今回の案で特に納得しがたいのが、70歳以上に適用される外来特例について、住民税非課税で年収目安約80万円までの層は月8000円上限を据え置くとされている点です。
低所得者への配慮は必要ですが、年齢で線を引いた“特権的な仕組み”が温存され続けること自体が、公平性を損ねます。
この一部高齢者の「低額受け放題」の特権的仕組みが、医療費の増大を招く大きな要因になっているというのは、かねてから多くの専門家が指摘をしてきているところです。
資産を保持している高齢者も多い中、真っ先に引き上げるべきなのはこの部分ではないでしょうか。
問題点④:「年間上限」を申出制で始めるのは取りこぼしを生む可能性がある
限度額引き上げで多数回該当から外れる人が出る可能性に対して、年間上限を設けるという発想自体は理解できます。しかし、申出制で始めると、情報や手続きに弱い方ほど取りこぼされます。
セーフティネットは「知っている人だけが得をする制度」であってはいけません。なんのためにマイナンバーやマイナ保険証があるのでしょうか?原則自動で適用される仕組みを目指すべきです。
結論:やるべき改革は別!
こちらの記事でも触れられていますが、2011年に厚労省は高額療養費の限度額引き下げのため、外来患者が受診の度に窓口で100円上乗せして払う「受診時定額負担」を提案したものの、受診抑制や格差助長を招くと医師会などが反対、見送りとなりました。数兆円の財源となり得るとの試算もあると聞きます。 https://t.co/W9LGPNWhYG
— 天野 慎介 Shinsuke Amano (@shinsuke_amano) December 17, 2025
高額療養費の自己負担額見直しは、収入はないけど資産はある高齢者からにして欲しいと思いますよ。放射線治療では外来通院で1週間で終わる定位照射(ピンポイント照射)っていう治療があるんですが、「本当に8000円でがん治るんですか!?」って患者さん本人からもさすがにビビり散らかされていますよ。 pic.twitter.com/RBjngc0gVH
— rtakenaka (@rtakenakatky) December 17, 2025
一部の高齢者や業界団体に忖度し、いつまで歪んだ制度の維持を無理やりに続けるのでしょうか。
現役世代にこれ以上のリスクと負担を押し付ける形で高額療養費をいじるのではなく、先に外来・窓口負担の歪みを正面から是正する改革を進めるべきだと考えます。

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編集部より:この記事は、前参議院議員・音喜多駿氏のブログ2025年12月17日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は音喜多駿ブログをご覧ください。






