石破はトランプに減税策の教えを請うべき

トランプ政権の次期閣僚候補の公聴会が米上院で行われている。15日の財務長官候補スコット・ベッセントに対する、民主党ウェイデン上院議員によるトランプの関税政策についての質問とその回答で、メディアや識者が余り述べていない観点が次のよう示された。(太字は筆者)

ウェイデン議員:(トランプの)関税政策はナンセンスと思う。労働者と中小企業が支払うことになるからだ。貴方の考えはどうか?

ベッセント候補:私は上院議員のご意見に敬意を表して反対します。外国の製造業者、とりわけ輸出によって現在の経済状況から抜け出そうとしている中国は、米国市場のシェアを維持するために価格を下げ続けるでしょう。

周知の通り輸入関税は、輸入業者がその政府に納める。例えば、100円の輸入価格に新たに20%の関税が掛かれば、それに業者が経費や利益を50円乗せて販売する場合、売値は従来の150円から、100円+関税20円+業者50円=170円に値上がりする。

消費者は170円を支払い、業者が20円納税するということだが、普通は市場でそうはならない。値上がりすれば売れなくなるから、業者は止むを得ず10円泣いて売値を160円に留めることがあるからだ。つまり、業者と消費者が関税20円を10円ずつ支弁する場合がある。

ウェイデン議員や識者やメディアはそれを言う訳だが、財務長官候補は、中国が値下げするから、売値は上がらずに政府には20円が納税されるという。現実は20円丸々でないかも知れぬが、シェア維持のために一定の値下げは行われるだろう。市場の原理とはそういうものだ。

20日に関税や税金の他、外国からの歳入を徴収する「外国歳入庁」を創設するトランプは「米国民は余りにも長い間、内国歳入庁から税金を徴収されてきた」「我々との貿易で利益を得ている人々が公正な負担額を支払い始めることになる」と述べた(15日の『ロイター』)。その「利益を得ている人々」には輸出国も含まれる。

同記事は、保守系調査機関タックス・ファンデーションの試算によると、米国の全輸入品に一律20%の関税を課した場合、10年間で4兆5千億ドルの税収が得られるが、その後は経済への悪影響によって10年間で正味3兆3千億ドルに減少するとしている。

記事のいう「その後の経済の悪影響」の試算には、輸入品の米国生産切り替えに伴う雇用促進効果や関税収入を原資とするトランプ減税の経済効果などが織り込まれているのだろう。が、ベッセントの言う輸出国による値下げが見込まれているかは疑わしい。こここそトランプのディールなのに。

そこでトランプが減税に固執する理由だが、それは第一次政権の17年12月に成立させた税制改革法(TCJA)の延長・恒久化だ。この減税が先の大統領選で「この4年間より、前の4年間の暮らしの方が良かった」と多くの有権者に言わしめ、「トランプ2.0」の原動力の一つになった。

減税の内訳は、先ず個人所得税最高税率の39.6%から37%への引き下げだ。法人税では、地方と平均して約28%まで下げ、加えて海外子会社からの配当課税の廃止や設備投資全額を課税所得から控除すること(即時償却)を認めて企業の投資を促すなど、多岐にわたった。

ところが、個人所得税減税の多くは8年間の時限立法で、25年末に期限を迎えてしまう(即時償却の期限のみ5年間)。が、全ての減税を延長する場合、34年までの向う10年間で約4.58兆ドルの財政赤字をもたらし、このうち個人所得税分が3.26兆ドルを占めるとされる。

我が国でも、先の総選挙で大躍進した国民民主党が提起した「103万円の壁」論議で、宮沢自民党税調会長が「7~8兆円税収不足になる」と述べたことで、「政府の税収不足=国民の手取り増加」という判り易い算式を、多くの国民が改めて認識することとなった。

森山幹事長は「財源の裏付けのない話をしてはいけない。国をおかしくしてしまう」と他人事のように述べた。が、トランプの公約「アジェンダ47」にある関税政策やイーロン・マスクが率いる「DOGE」による連邦政府の無駄削減は、それを原資に米国民に減税を行うためのものだ。

減税原資の捻出には、グリーンニューディールの廃止、政府支出における無駄・不正の撤廃、教育省や環境保護庁など一部政府機関の縮小・廃止、IRA(インフレ削減法)の見直しなどがあり、関税政策と合わせて2兆6千億~5兆5千億ドルがもたらされるとの試算もある

筆者は19年5月の拙稿で、モーニングショーの某コメンテーターが、トランプが中国に課した追加関税を「国民が払うんでしょう」述べたことに「確かに一理ある。しかし一理しかない」「それは、一旦は米国の国庫に入るものの、国民に対して種々のサービスやあるいは減税などの形で戻って来る」と書いたのを思い出した。

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民主党の急進左派「The Squad」らに引き摺られたバイデン政権が、過度に進めたDEI絡みの人権政策や気候変動対策に纏わる予算の多くを、トランプ政権が首尾よく削ることが出来れば、TCJA恒久化の可能性は決して低くなかろう。

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それに引き換え、我が政府与党の増税体質は眼を覆うばかりだ。例えば「男女共同参画基本計画関係予算」は間接的に関係する予算も含めると10兆円超、こども家庭庁の「子ども・子育て支援関係予算案」も5兆円を超え、合わせて15兆円を上回る巨額である。

「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、(中略)共に責任を担うべき社会」では「子育て」を支援すべき「こども」が減少する、と普通の国民なら判る。その予算の半額で「103万円の壁」は壊せる。

例えば「再エネ賦課金」は約2.7兆円(24年)だ。世界が原発に回帰する中、政府が12月に出した「新しいエネルギー基本計画の素案」は、原発につき「可能な限り依存度を低減する」との文言をやめ、最大限活用していく方針」とした。ならば、「賦課金」もやめて原発比率を更に高め、国民負担を減らしたらどうか。

国債費約29兆円についても、令和7年度予算117.6兆円の24.6%を占めるが、国の負債と資産のバランスシートでは日本の財政規律は健全だとの見方がある。そのうちの約17兆円は日本固有の60年ルールに基づく借り換えで、心配はないとの論があり、筆者も同感だ。

しかし約10.5兆円の利払い費は、金利が上がると利払いが増えて大変だと目の敵だ。が、ここで注目すべきは国債の保有先=利息の支払先だ。24年6月時点の保有先は、日銀:53.25%、海外投資家:13.8%、国内民間金融機関:23.15%、残りの約1割は日本の個人である。

誰も言わないし管見の限りだが、海外流出する利払い費は1.4兆円で、残り9.1兆円は日本の資産だ。利払い費の53.25%は日銀に入るが、日銀株の55%は政府保有で、配当は日銀法で資本金1億円の5%(5百万円)である。よって受取利息約5.6兆円から配当や経費を引いた利益は国庫に入るのだ。どこが心配なのか。

政府与党には、増税ばかり考えずに効果や使い道の判らない予算のカットや再エネ賦課金の廃止、そして国債に纏わる無用な財政規律重視を改めてもらいたい。要は、国民を信じて活力を与える施策――その最たるものをトランプは減税と考えている――を講じよ、ということ。

石破総理は12月5日の衆院予算委員会で、「辞書の中で最も美しい言葉は関税」とのトランプ語を、「相当に不思議な感じを持って聞いた」と述べた。が、「楽しいと実感できる日本に」するための具体策こそが求められるのだ。早くトランプに会って教えてもらうことだ。

トランプ氏と石破茂首相

ところでベッセント候補は、「米国には収入の問題はないが、支出が制御不能になっている」、「関税は歳入増加に役立ち、より公正な貿易慣行を確保するための他国との交渉手段としても機能する」とも述べたが、無事公聴会をパスし、財務長官に就任する。