トランプ米政権によるベネズエラ軍事介入とマドゥロ大統領の拘束を受け、欧州諸国はその対応に苦慮している。米大統領がベネズエラ大統領を逮捕し、国外追放する権利を主張すれば、ロシアのプーチン大統領はウクライナへの軍事侵攻、そしてキーウ政権の交代を要求する自身の主張が正当化された、と感じてしまう可能性が出てくるからだ。

ベネズエラ軍事介入後、記者会見するトランプ大統領、左の映像は米軍に拘束されたマドゥロ大統領、ドイツ民間放送ニュース専門局NTV中継からのスクリーンショット、2026年1月3日
欧州でもベネズエラのマドゥロ大統領が独裁者であり、不正選挙で政権を獲得した政治家であることは良く知られている。ベネズエラから亡命してきた多くの政治難民が欧州に住んでいる。例えば、スペインではマドゥロ大統領の拘束の報が伝わると、「この日を待っていた。これで国に帰れる」と喜ぶベネズエラ難民の声が報じられた。
ただし、欧州諸国にとって、遠く離れた南米の政治ドラマを喜んでばかりはいられない。米国のベネズエラ軍事介入とその後の行動はウクライナ戦争やグリーンランド紛争など、他の紛争地域にも波及する恐れがあるからだ。
米国の新たな「国家安全保障戦略」は西半球を米国の戦略的優先事項と位置付けている。ベネズエラにおける軍事行動は、1989年にパナマの指導者マヌエル・ノリエガが米国の軍事介入中に逮捕された事件を彷彿させる。トランプ米大統領が伝統的な大国政治への回帰を追求し、必要であれば武力によって米国の利益を強制するのではないか、といった懸念だ。
そこで米国のベネズエラ軍事介入について、欧州主要国の反応を紹介する。
【メルツ独首相】
マドゥロ政権が独裁政権であり、麻薬問題に関与していることは良く知られている。ただ、米国の軍事作戦の法的分類は複雑だ。この問題に対処するには時間がかかる。
(トランプ政権の軍事介入に戸惑いを感じながらも、トランプ氏への批判を避けた)
【スターマー英首相】
ベネズエラのマドゥロ大統領の退陣に悲しんでいない。我々はマドゥロ氏を非合法な大統領とみなしており、彼の政権の終焉に涙は流していない。英国は長年にわたりベネズエラの政権交代を支持してきた。ベネズエラ国民の意思を反映した正当な政府への安全かつ平和的な移行を目指し、今後米国と協議を行う。我々は国際法の重要性を遵守すべきだ。
【フランス外務省】
米国の攻撃は国際法違反だ。マドゥロ大統領の拘束につながった軍事行動は、国際法の原則に違反している。永続的な政治的解決を外部から押し付けることはできない。国家の将来を決定できるのは主権者である国民のみだ。
【メローニ伊首相】
外部からの軍事行動は全体主義体制を終わらせるための正しい方法ではない。同時に、自国の安全保障に対するハイブリッド攻撃、例えば国家主体が他国における麻薬密売を助長・促進する場合などに対する防衛介入は正当だ。
(メローニ首相はトランプ支持者だ。米軍の防衛介入を正当とみなしている)
【スペインのサンチェス首相】
わが国はマドゥロ政権を承認していないが、国際法に違反し、地域を不安定な状況と戦争の危険に陥れるような介入は承認しない。
【欧州連合(EU)欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長】
欧州はベネズエラ人の立場にある。ベネズエラが国際法、国連憲章を堅持し、平和的、民主的移行できるように願っている。
欧州の英仏独は米国と協調してウクライナ和平の実現に努力してきた。ウクライナに領土侵入したロシアに対しては制裁を実施してきた。その米国がたとえ理由があるとしても、主権国家ベネズエラに軍事介入し、短期間としてもベネズエラを統治するということは、国際法違反であることは明らかだ。米国の軍事介入を認めたり、黙認した場合、ロシアのウクライナ侵攻を批判できなくなる。国際法に違反する侵略戦争に関しては、二重基準があってはならない。プーチン大統領に制裁を科す者は、トランプ大統領にも制裁を科さなければならないからだ。
ウクライナのメディアによると、ゼレンスキー大統領はキーウで記者団に対し、「独裁者への対応がこのような方法であれば、米国は次に何をすべきか分かっているはずだ」と述べている。ゼレンスキー氏はプーチン大統領にもマドゥロ大統領と同じ運命が待っているはずだ、と示唆したわけだ。
ちなみに、ロシアのプーチン大統領は先月、マドゥロ大統領と電話会談し、無条件でベネズエラを支援すると確約していた。クレムリンからはウクライナを軍事支援する欧州諸国に対し、「米国の軍事介入を批判せず、ロシアの特別軍事作戦を批判することは、明らかにダブルスタンダードだ」という声が既に聞かれる。
なお、、トランプ政権のベネズエラ軍事介入は中国でも批判的に受け取られている。中国の国営新華社通信は外務省報道官の発言を引用し、「中国は、主権国家とその大統領に対する米国の露骨な武力行使に深く衝撃を受けており、最も強い言葉で非難する」と述べている。中国は、ロシアとイランとともに、ベネズエラの同盟国の一国だ。
参考までに、世界にとって最悪のシナリオを紹介しておく。米国は西半球など自身の勢力圏を力で統治していく一方、ロシアはウクライナを、中国は台湾をそれぞれ武力統合に出てくる可能性が考えられる。トランプ氏はプーチン氏と習近平国家主席の間で世界の勢力圏の分割で暗黙の合意が既に出来ている、といった憶測が生まれてくるのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






