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2025年12月に与党から公表された「税制改正大綱」について、第1部では、今回の大綱が実需や社会課題をどのように意識しているのかを整理し、第2部では、不動産投資家に対する影響と是正対象の輪郭を確認した。


第3部の今回は、視点を企業側に移し、企業が保有・活用する不動産、すなわちCRE(Corporate Real Estate)への影響を考えてみたい。
結論から言えば、今回の税制改正大綱は、企業不動産に対して直接的な増税や保有規制を課すものではない。しかし同時に、企業が不動産を「どのように持ち、どう使うのか」について、これまで以上に戦略的な説明を求める内容になっている。
表面的に見れば、法人税や固定資産税、不動産取得税といった企業不動産の根幹に関わる税制に大きな改正はない。そのため、「企業への影響は限定的」と受け止められがちだ。しかし、今回の大綱を貫くキーワードである「公平性」「健全性」「生産性」に注目すると、企業不動産の位置づけが静かに変わりつつあることが読み取れる。
その象徴的な施策が、特定生産性向上設備等投資促進税制の創設である。本制度では、生産性向上に資する設備投資として、機械装置や工具だけでなく、建物、建物附属設備、構築物といった不動産関連資産を含めて特別償却の対象としている点が注目される。
CREの観点から見れば、これは単なる設備投資減税ではない。従来、企業不動産は「持っていること自体がコストになる固定資産」として扱われがちであったが、本制度は、不動産を生産性向上のための投資対象として再定義するメッセージを含んでいる。
特に、老朽化した工場、物流施設、研究開発拠点などについて、現状維持の修繕にとどまらず、設備更新や建替え、機能転換を伴う再投資を行うことで、税務上のインセンティブを享受できる点は、企業の意思決定に大きな影響を与える。これは、CREを「眠らせておく資産」から、「経営戦略と連動して磨き直す資産」へと転換する後押しといえる。
また、本制度が土地そのものを対象にせず、建物や設備といった付加価値を生む部分にインセンティブを集中させている点も重要だ。これは、不動産の単純な保有や値上がり益を評価するのではなく、実体経済への貢献度を重視する政策姿勢の表れであり、第2部で触れた投機的取引の是正という流れとも整合的である。
一方で、今回の大綱では、評価の歪み是正や価格高騰への警戒姿勢も示されている。これらは主に個人投資家や市場全体に向けたメッセージだが、企業不動産も無縁ではない。市場価格の変動は、企業の財務諸表、資金調達、格付け評価などに間接的な影響を及ぼすからだ。
このような環境下では、企業が保有する遊休地や低稼働不動産について、「将来使うかもしれない」という理由だけで保有を続ける判断は、社内外からの説明が難しくなりつつある。不動産を保有すること自体が目的ではなく、事業性・収益性・資本効率の観点から、前向きに経営にどのように貢献しているのかが、これまで以上に問われる局面に入っている。
今回の税制改正大綱は、CREを通じた節税や含み益管理を否定するものではない。しかし、それだけを目的とした不動産保有に対しては、相対的に評価が厳しくなる方向性を示している。一方で、生産性向上や事業再編、競争力強化につながるCRE投資については、明確に後押しする姿勢が読み取れる。
中堅・中小企業に目を向ければ、創業期から保有してきた工場や本社、社宅用地などが、現在の事業構造や市場環境と乖離しているケースも少なくない。今回の大綱を契機に、自社の不動産が「経営資源として機能しているのか」「単なる固定資産になっていないか」を点検することは、大きな意味を持つだろう。
税制改正大綱は、直接的なルール変更以上に、企業や市場の行動を静かに方向づける役割を果たすことが多い。今回も同様に、企業不動産に対して「こうしなさい」と命じているわけではない。しかし、「CREを経営戦略と一体で再設計すべき時期に来ている」というメッセージは、確実に読み取れる。
第1部・第2部を通じて見てきたように、今回の税制改正大綱は、不動産を巡る歪みを是正しつつ、実需と事業性、生産性に基づく健全な活用へと重心を移そうとする流れの中にある。企業にとっても、CREを単なる「保有資産」ではなく、「競争力を支える経営資源」として捉え直すことが、今後ますます重要になるだろう。






