イラン・ムッラー政権は弱体化したが、依然倒れず

イランで昨年12月28日、テヘランのバザール商人たちが政府の優遇為替レートの廃止計画に反発し路上でデモを開始したのが事の始まりだ。抗議デモの波は大学に波及し、瞬くままにイラン全土に拡大。それを受け、イラン治安部隊はデモ参加者に実弾を発射するなど強硬な対応に乗り出す一方、国内の状況が海外に拡散するのを防ぐために今年1月8日からインタネットの接続を切断してきた。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

米国に拠点を置く人権団体HRANA(Human Rights ActivistsinIran)によると、イランで最近発生した大規模抗議活動でこれまでに4,519人の死亡が確認されている。さらに約9,000人の死亡者についてはまだ調査中という。HRANAの情報によると、治安部隊員197人も死亡した。イランではインターネットが依然として遮断されている。1月8日と9日に行われた大規模抗議活動に対する暴力的な弾圧の全容を示す映像は、ようやく徐々に公開されてきている。

HRANAの報告書は、医療専門家らが分析した衝撃的な映像に言及している。専門家らは、死亡したデモ参加者の遺体からカテーテルや呼吸チューブなどの医療機器が発見されたことから、負傷者の一部は治療開始後に死亡し、公式に死亡が確認されずに搬送されたのではないか、という疑惑が浮上している。通信遮断のため、この情報は独自に検証することができない。

イランの最高指導者ハメネイ師自身は17日、「数千人の犠牲者が出たが、その責任は抗議デモを扇動した米国、特にトランプ大統領にある」と発言している。

ところで、独週刊誌シュピーゲル最新号(1月16日号)は米国に亡命し、ノースカロライナ州のデュ―ク大学で教鞭をとっているイラン出身のモフセン・カディヴァル氏とインタビューしている。同氏はイランでアヤトッラー(Ayatollah)と呼ばれる称号を持つ人物だ。称号アヤトッラーは、シーア派イスラム教における高位の宗教指導者に与えられるもので、「神の徴(しるし)」を意味し、卓越した学識と宗教的権威を持つイスラム法学者に授けられるものだ。

同氏は今回の抗議デモについて、「2022年のデモとは規模とその勢いで異なっていた。女性主導の2022年のデモとは異なり、男性が多く参加していた。その要求内容も過激的だ」と指摘。ムッラー政権は「抗議デモは外部勢力に誘導されていた。米国やイスラエルが抗議デモをあおってきた」と説明しているが、「抗議デモの責任はムッラー政権にあることは明確だ」と強調した。

ただし、同氏は「抗議デモでムッラー政権が崩壊することは目下、考えられない。政権は弱体化し、その正当性も失ったが、イラン革命防衛隊や国軍は依然、ムッラー政権を支援している。また、イランには組織化された野党勢力、グループが存在しない。だから、イランの情勢はイラク、シリア、ベネズエラとは異なる」と述べた。

米軍がイランを攻撃した場合、「ムッラー政権に反対している国民も祖国の防衛のために立ち上がるだろう。イスラエルと米軍が昨年6月、イランを攻撃した時(12日間戦争)、西側ではイラン体制の崩壊は近いと囁かれたが、イランでは逆に、国内の結束が強まっていった。イランでは外から軍事攻勢があった場合、大多数の国民は愛国心から国を守ろうとするのだ。反体制派の国民でもそうだ」と説明した。

カディヴァル氏はイランの今後について、4つのシナリオを挙げている。①1979年の現憲法に基づく国体の堅持、②議会選出による大統領制、③君主制(1906年憲法)、④民主主義に基づく共和国の建設だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。