薪ストーブ使用者と反社会性の医学的考察

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本稿では、薪ストーブ使用者や業者に見られる反社会的言動について、医学的視座から考察をしてみます。

大気汚染と犯罪傾向・認知機能の変化

近年の疫学的研究により、大気汚染が人間の脳構造と行動傾向に影響を及ぼすことが明確になっています。

とりわけPM2.5や超微小粒子(UFP)は、鼻腔を経由して嗅神経から脳に直接到達し、前頭前野や扁桃体の炎症を引き起こすことが示されています注1)

この領域は感情抑制や倫理的判断を司る中枢であり、慢性的な微粒子曝露は「衝動性」「攻撃性」「判断の短絡化」といった行動的変化をもたらすことが知られています注2)

米国の研究では、大気汚染濃度の高い地域ほど暴行・殺人・家庭内暴力などの発生率が高く、社会的階層差を統制しても有意な相関が確認されています注3)

また、同様の地域では学生の学業成績やIQスコアも平均して低下し、特に言語的・論理的推論能力に顕著な影響が見られました注4)

このような傾向は一過的なものでなく、胎児期や幼少期の曝露によっても長期的な神経発達の遅れが生じ、人格形成や社会的行動にまで波及することが報告されています注5)

すなわち、大気汚染は単なる呼吸器疾患の要因にとどまらず、人間社会の「理性」と「共感性」を蝕む構造的環境因子であり、科学的には“神経毒的ストレス環境”と定義し得るものです。

この知見を踏まえると、薪ストーブなどの木質燃焼装置から排出される高濃度PM2.5が住宅地で慢性的に拡散されることは、地域社会の神経心理的環境をも破壊していると見るべきでしょう注6)

注1)Calderón-Garcidueñas L et al., Environmental Research, 2018.
注2)Peterson BS et al., JAMA Psychiatry, 2015.
注3)Burkhardt J et al., Journal of Environmental Economics and Management, 2019.
注4)Zhang X et al., PNAS, 2018.
注5)Sunyer J et al., The Lancet Planetary Health, 2017.
注6)北欧環境庁報告書(2020):住宅密集地での薪燃焼禁止勧告。

薪ストーブ使用者・業者に見られる反社会的行動傾向と神経学的推論

薪ストーブ使用者や販売業者にしばしば見られる、反社会的で極めて攻撃的で利己的な態度──たとえば苦情を無視し、被害者を嘲笑・威圧恫喝(筆者も実際に薪ストーブ使用者から逆切れされ酷い罵言を浴びせられる他にも嫌がらせを受けています。犬をけしかけ吠えさせる、チェンソーや草刈機の空ぶかし、近隣住民への事実無根な悪口流布など)する、行政への虚偽説明(昨日は焚いていません、等)を行う──といった言動は、単なる「モラルの欠如」ではなく、神経科学的・心理学的観点からも分析が可能です。

第一に、慢性的な煙曝露は使用者本人にも及びます。薪燃焼煙にはベンゾ[a]ピレンなどの多環芳香族炭化水素、重金属、超微粒子が含まれ、これらが嗅神経経路を通じて中枢神経に到達することが確認されています注7)

動物実験では、PAH曝露群で前頭葉の神経細胞変性、報酬系過活動、共感関連領域の灰白質減少が認められています注8)

このため「他者への共感性の欠如」「自分の快適性優先」「批判に対する過剰な敵意」などの反社会的な行動変化が生じやすくなることが推定されます。これは一般にダークトライアド的特性(後日稿にします)と呼称されます。

ここで考慮すべき点は、「どちらが先か」ということです。元々ダークトライアド的特性を持っている人がこのような他害的利己主義行動に走るのか、慢性的な煙暴露によってダークトライアド的特性が引き起こされるのか、心理学の視座からの調査が必要ではないかと思われます。筆者が事例を観察見聞する範囲においては大半は前者であろうとは考えられますが。

第二に、薪ストーブ販売・施工業者の一部に見られる「健康・環境に良い」という虚偽宣伝や、科学的批判への強硬な反発も、心理学的には“認知的不協和”の典型例です注9)

自らの生計が倫理的に問題ある行為に依存している場合、人間は無意識的に現実を歪め、自己正当化を行う傾向があります注10)

この心理的防衛機制が業界全体の閉鎖性と結びつき、批判に対して敵対的・暴力的態度を取る構造を生み出していると考えられます。

これらの傾向は決して一部の逸脱者の問題ではなく、「汚染により自己制御機能が低下した個体が、集団的合理化の場で強化される」という社会心理的現象として理解すべきでしょう。

したがって、薪ストーブ煙害問題は単なる環境公害ではなく、「神経毒性によって変容した人間行動が、社会構造的に再生産される」事例でもあるといえるでしょう注11)

注7)Klocke C et al., Toxicological Sciences, 2017.
注8)Block ML et al., Neurotoxicology, 2012.
注9)Festinger L., A Theory of Cognitive Dissonance, 1957.
注10)Barkan R et al., Organizational Behavior and Human Decision Processes, 2015.
注11)日本環境心理学会年報(2022):地域紛争における感情制御機能低下の研究。

理性を侵す環境公害としての薪煙問題

薪ストーブ由来の大気汚染は、呼吸器や循環器への健康影響にとどまらず、人間の行動や社会的理性にまで影を落とす「脳科学的公害」の側面でもあることが、近年の知見から明確になりつつあります。

PM2.5による微細炎症は思考・判断・共感の基盤を侵し、使用者自身の性格や倫理的判断にも微細な(悪い方向への)変化をもたらしうる──このことを正しく理解しなければ、問題の本質は見えてきません。

これらの知見により、薪ストーブ被害者たちが加害者(薪ストーブ業界関係者や使用者)から受ける理不尽な暴力的言動、それも温厚な自然派の善人のイメージとは程遠い、高圧的で身勝手極まる凶悪粗暴な行動、これらはすべて医学的には説明がつくわけです。

薪煙問題は、物理的な“煙”の被害と同時に、社会の“理性”を蝕む静かな毒でもあると言えます。


編集部より:この記事は青山翠氏のブログ「湘南に、きれいな青空を返して!」2026年1月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「湘南に、きれいな青空を返して!」をご覧ください。