ユダヤ人は古代ユダヤ人の子孫か?日本の皇室は縄文系?

先祖を知る手がかりとして、もっとも信頼性が高いのは母系の先祖をミトコンドリアでたどっていく方法だが、父系の先祖をY染色体でたどることもある。

国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退』(さくら舎)では、世界のユダヤ人の大半を占める東欧系のアシュケナジムは古代ユダヤ人と血縁関係が薄いのではないかという問題を議論している。

Y染色体系統とミトコンドリア系統の「信頼性の差」とは何かというと、Y染色体は組み替えがやや起きやすいこと、ミトコンドリアは古い人骨からも検出しやすいこと、解析の容易さ、突然変異の確率が安定していて予測がつきやすいことなどが理由とされる。

しかし、近年の分析技術の進歩で、Y染色体をもとにした分析の信頼性も上がっている。そうすると各民族の先祖が母系と父系でだいぶずれがあることも分かってきている。

たとえば、米国では母系ではアフリカ系の割合が多いが、父系ではヨーロッパ系もかなりの割合であり、白人の奴隷所有者と黒人奴隷の子がかなり存在したことをうかがわせる。

中央アジアでは、チンギス・ハンの男系子孫であることが重んじられたため、その痕跡が濃厚に認められる。

ユダヤ人についてだが、中東では民族は宗教が基準で、ユダヤ人もユダヤ教徒のことである。本来は、ユダヤ人の母親から生まれるか、ユダヤ教に改宗した者をいう。ただし、イスラエルへ移住する条件についての1950年の「帰還法」では、ユダヤ人の祖父あるいは祖母を持てばよいことになっている。

picturejohn/iStock

世界のユダヤ人でもっとも大きな集団は、鉤鼻などでおなじみの東欧系のアシュケナジムだが、古代ユダヤ人とは血縁的つながりは認めがたく、中世のどこかで集団で改宗したりしながら形成されたともいう。ただし、中世に黒海沿岸にいたハザール人という特定の集団だけが母体だというのはあり得ない。

一方、ローマ帝国による迫害のあとも中東にとどまったミズラヒムや、北アフリカに多いセファルディムは、混血しているとはいえ血縁関係が濃そうである。また、イスラム教に改宗したユダヤ人もいるわけで、イスラエルと対立するパレスチナ人にこそ、イスラエル人の平均よりは古代ユダヤ人の血を受けているという人もいる。

ただ、ミトコンドリアではなくY染色体分析だと、中東起源のタイプが聖職者階級などを中心に三割ほどいるともいう。とはいえヨーロッパ系の割合のほうが多く、古代中東起源ということが直ちに古代ユダヤ人が中心とは言い切れないが、アシュケナジムは古代ユダヤ人の子孫ではないとも言い切れないということだ。

しかし、最近の学説でY染色体がことさらに語られるのは、かなりイスラエル政府における政治的意思が影響しているように見える。

同じことは日本人にもいえ、ミトコンドリア分析では9割に近い日本人の血は非縄文人、広い意味での弥生人であることが間違いない。しかし、父系では3割とかそれ以上が縄文系という分析もあり、その差が注目される。

普通は後発の渡来人の影響が父系で多いはずが逆なのである。そこから想像をたくましくすると、たとえば皇室や藤原氏の父系先祖が縄文人で、それが源氏・平氏や藤原氏系の武士として地方に土着したという可能性もある。

ただ、こうした問題は政治的な意図で父系の数字を取り上げたい人が多く、冷静な判断が必要だと思う。


国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退

【目次】
第1章 文明の源流と民族奥亡が紡いだ古代ユーラシアの大地図
第2章 大航海、新帝国、革命が形づくった近代ユーラシアの再構築
第3章 ユダヤ・イスラーム・ギリシアの世界が形づくった中東の文明圏
第4章 ロシアとウクライナを形づくった千年の興亡史
第5章 インド文明を形づくった大地・民族・宗教の多層史
第6章 王朝・民族・地政学で読み解く東アジア世界の歴史構造

【関連記事】

 

コメント投稿をご希望の方は、投稿者様登録フォームより登録ください。

コメント