伝統的金融と分散型金融との融合

2026年は既存の金融機関の在り方が変わり始める最初の年になる。その背景にあるのは、あらゆるものがトークン化していく大きな構造変化である。株式や債券、預金、担保、決済・清算、さらには信用や権利義務まで、あらゆる価値をデジタルの証票として扱えるようにする「金融の記録形式の転換」が起こりつつあり、規制側と実務側と、そして何よりTradFi(伝統的金融)自身までもが同時にトークン化へ踏み出し始めたことが大きい。既存の金融機関は自らの役割を再定義しなければ、存在意義を問われる局面に入ったのである。

例えば米BlackRockが米Securitizeと提供するトークン化MMF「BUIDL」の配当は累計で1億ドルを超えた。さらに米Visaも米国内でUSDCによる決済の清算サービスを開始した。顧客体験を変えることなく裏側の「清算レイヤー」だけを更新するという、この発想こそが重要だ。オンチェーン化の主戦場は表に見えるプロダクトではなく、金融インフラの中核へと移ったのである。

DeFi(分散型金融)についても、いまだ誤解が多い。DeFiの本質は金融機能を標準化された部品として提供する点にある。資産や決済・清算がトークン化され、オンチェーン上でやり取りされるなら、DeFiが使われない理由はない。トークン化された伝統資産が担保として組み込まれていけば、DeFiは「第二の資本市場」のように機能し始めるだろう。ただし、ここで重要なのは、DeFiが社会の中核インフラになるかどうかを決めるのは技術ではないという点だ。多くの顧客基盤を持ち、日常の金融行動として定着させるために既存金融機関が果たす役割は極めて大きい。

さらに、デジタルは国境を持たず、時間も待ってくれないという現実も忘れてはならない。これからは国内の事業者間の競争ではなく、国と国の主導権争いになる。トランプ米大統領は2025年7月、米国初の暗号資産法「GENIUS法」に署名し、デジタル金融で世界の主導権を握る方針を示した。一方、「G2」の中国は同年11月、香港にてトークン化預金とデジタル資産の実取引が可能となる試行環境を導入し、世界のデジタル金融の形成において影響力を高めている。ここで日本の金融庁の役割が問われる。金融行政の目的は、規制強化や競争制限ではなく、競争を導入し効率化とイノベーションを活発化させることが第一義であり、次に罰則を強化し、不正行為を抑制することだ。理想的な制度設計を待っていては世界のスピードについていけない。

戦略とは、目先の流行に対応することではない。次の十年を見据え、どの分野で主導権を取るかを定め、そのための布石を打つことだ。トークン化とデジタル金融はその成否が日本の将来を左右する分野である。日本が再び世界の主役の座を目指すのであれば、企業や人材が海外から戻って来たくなる環境を整えなければならない。改革が滞れば、戻らないどころか流出はさらに加速する。
2026年は変わる覚悟を持てるかが問われる年である。その選択が十年後の日本の競争力、ひいては国家の競争力を決めるだろう。


編集部より:この記事は、「北尾吉孝日記」2026年2月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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