首都圏中堅企業のための不動産再設計戦略② 金利・税制・承継がもたらす財務圧力

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第1回では、首都圏の不動産保有型中堅企業が直面する「見えないリスク」を概観した。

首都圏中堅企業のための不動産再設計戦略① 経営を圧迫する見えない不動産リスク
首都圏の中堅・中小企業、とりわけ製造業、倉庫運送業、ビルオーナー企業の多くは、長年にわたり不動産を保有してきた。工場用地、自社ビル、倉庫、遊休地——それらは企業の歴史そのものであり、信用力の裏付けでもあった。しかし近年、その前提が静かに変わ...

本稿では、そのリスクを構成する三つの圧力——金利、税制、承継——が、企業財務にどのような影響を与えるのかを分解する。

金利上昇がもたらす”静かな財務圧力”

長期金利の上昇は、直ちに企業経営を揺るがすものではない。しかし、不動産を多く保有する企業ほど、その影響は時間差で累積する。

第一に、借入金利の上昇である。固定金利であっても借換え時には再評価される。変動金利であれば即座に利払い負担が増加する。特に本社ビルや賃貸物件を担保に長期借入を行っている企業では、支払利息増加が営業キャッシュフローを圧迫し、投資余力を削ぐ。

第二に、資本コストの上昇である。金利が上がれば、投資判断に用いる期待利回り(ハードルレート)も引き上げざるを得ない。不動産の実質利回りが資本コストを下回れば、それは経済合理性を欠く保有となる。低金利環境下では顕在化しなかった”保有の非効率”が、金利上昇局面では可視化される。

第三に、金融機関の融資姿勢である。金利上昇局面では、銀行は担保評価や事業収支の妥当性により慎重になる傾向がある。担保余力が低下すれば、将来の設備投資やM&A資金の調達余地も狭まる。不動産は資産であると同時に、資金調達の基盤でもある。その基盤の評価が変化すれば、企業の成長戦略全体に影響が及ぶ。

税制改正の方向性と”評価リスク”

税制の議論は、企業不動産にも間接的に影響を与える。

近年、貸付用不動産の評価方法や短期売買への監視強化など、不動産を巡る税制の在り方が検討課題となっている。全面的な制度変更が確定しているわけではないが、「不動産を活用した評価圧縮」が将来も同様に認められる保証はない。

重要なのは、実際の改正よりも「将来変更されるかもしれない」という期待形成である。評価圧縮が前提の承継設計や資産戦略は、その前提が揺らぐだけでリスクを抱える。

とりわけ首都圏の中堅企業では、法人が不動産を保有しているケースが多い。地価上昇により含み益が拡大すれば、純資産価額方式による自社株評価が上昇する。結果として、創業者個人の相続税負担が増加する構造となる。

問題は、税率の高さではなく、「評価が膨らむ構造」にある。企業側にキャッシュフローが十分にあれば対応可能だが、不動産比率が高く流動性が低い場合、納税資金の確保が経営リスクに転化する。

税制は”コスト”ではなく、”構造的圧力”として理解すべきである。

承継問題が財務リスクに変わる瞬間

中堅企業の経営現場で最も深刻なのは、後継者問題である。

後継者が明確でない、あるいは承継方針が定まっていない企業では、不動産戦略も曖昧になる。売却判断が先送りされる、建替え投資が決断できない、遊休地が放置される。その結果、不動産は「活用資産」から「固定資産」へと変質する。

承継時には、株式評価・納税資金・議決権構造などが一気に顕在化する。そのとき初めて、不動産の含み益や流動性の低さが問題になる。

さらに、銀行は承継計画の有無を与信判断の重要要素として見るようになっている。承継方針が不透明であれば、融資条件が厳格化される可能性もある。

承継問題は人の問題であると同時に、資産構造の問題でもある。

三つの圧力が同時に作用する構図

金利上昇、税制見直しの方向性、承継不安。これらは個別の問題ではなく、相互に作用する。

金利が上がれば資本コストが上昇する。評価が上がれば承継負担が増す。承継が不透明であれば投資判断は止まる。その結果、不動産は更新されず、財務は硬直化する。

この連鎖が、首都圏の不動産保有型中堅企業に共通する”静かな圧力”である。

たとえば、ある製造業では、創業者の高齢化と後継者不在により、老朽化した工場の建替え判断が長年先送りされている。金利上昇で建替えコストは上昇し、地価上昇で自社株評価も膨らみ、結果として「動けない状態」に陥っている。

問われているのは「保有の合理性」

重要なのは、不動産を持つこと自体が問題なのではないという点だ。

問題は、その不動産は資本コストを上回る価値を生んでいるか、承継を見据えた構造になっているか、流動性を確保できているか、を説明できるかどうかである。

金利や税制は外部環境であり、企業が直接コントロールできるものではない。しかし、不動産の再設計は経営判断の領域である。

次回は、売却・活用・分離・再編といった具体的な選択肢を整理し、首都圏中堅企業が取り得る戦略の方向性を提示する。

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